魔道具士リリ ~その魔道具の小型化、うけたまわります!~
『魔道具士リリの店』

手作りの看板の掛かった小さな店の奥で、完成したばかりの小型時計をテーブルに置き、頭もテーブルに乗せて横からも眺めてみた。
厚みも理想的!完璧だわ。

思わずニヤニヤしてしまう。
依頼されたのは、手のひらに収まるシンプルで小さな時計。
魔道具士としてこの街で店を開いて以来、全てにおいてとにかく小型化する事に終始していた。
これはその集大成だ。

ホント、私って天才だわ。


◇◇◇
昨年、王宮魔導具士のスーパーエリートが考案した世紀の大発明「時計」
先見の明のある我らが領主の伯爵様は、時間の概念が領都の発展のためになると中央広場に時計塔を作ってくれた。そして向かいの教会の鐘付き係りが時を告げる鐘を突く。
たまにズレるのはご愛敬、人為的な構造上仕方ないと皆温かく理解している。
とにかく、今までは日の出から日の入りまで適当だった働く時間が統一され、皆諸手を挙げて領主様を称えている。

最近ではお貴族様のお邸には豪華な装飾を施された置時計がドンと鎮座しているそうな。しかしそんなもの、平民には目も口も開いたまま閉じないくらい高価すぎて手なんて届きやしない。

「でも、時計自体を小さくすれば使用する魔石も小さくて済むから、裕福な商人や文官なら買えるようになると思うの。そうね、手のひらに乗るくらいかしら」

今日もそんな無茶ぶりを吹っ掛けにやって来たのは、王都で粗相をした私を脅して(?)領地へ連れて来た、伯爵様の愛娘であるお嬢様。
何度も言ってますけど、小さくするってすごーく大変なんですよ?

まあ、出来ますけれど。

最近婿になったどこやらの伯爵家のお坊ちゃまと手を取り合ってやってきては、いちゃいちゃしながら出したお菓子を食べさせ合っている。

何だろうこのバカップル。

もちろん言わないけれど。

だってこの婿のお坊ちゃま、お嬢様には激甘なのに、私に向ける目は笑ってなくてこわいんだもん。


◆◆◆
テーブルの上の時計が突然ガランゴロンと鳴り出した。
びっくりして時計を手に取ってもどこからそんな大きな音が出ているのか分からない。
そこかしこを指で叩いてみても音は鳴り止まない。
ねじを外し、歯車を分解してバラバラになっても鳴り止まない。
もう泣きそう。
パニックになって魔石をハンマーで粉々にしたのに鳴り止まない。
もう泣いちゃう。

うわーん、という自分の声で目が覚めた。
外で夜明けの鐘がガランゴロンと鳴っている。
昨夜完成したばかりの小型時計は朝日に照らされてテーブルの上に鎮座していた。


◇◇◇
私は本能に促されるままもう一つ時計を作り上げ、バカップル、もとい我らがお嬢様夫妻の下へ赴いた。

小型時計をそっちのけで、好きな時間に音を出せる置き型の時計を手に取ったお嬢様は、不敵な笑みを浮かべて金貨の詰まった袋をくれた。
いつもながら太っ腹。

「目覚まし時計」と名付けられたその時計は、お嬢様夫妻の商会の専売特許品として王都で飛ぶように売れているらしい。
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