新堂さんと恋の糸
 目に飛び込んできた光景に、私は息をのんだ。

 私の背丈よりも大きな、たまご型のハンギングチェア。
 無色透明のシェルがスタンドから吊り下げられていて、かすかにゆらゆらと揺れている。

 「すごい、ガラスでできてるみたいです…」
 「これはメタクリレートって材質。アクリル樹脂の一種で、ガラスより透明度が高くて耐候性にも優れてる」

 聞いたことのない名前に私はそうなんですね、という言葉しか出てこなかった。ラタンなどで作られているものは見たことあるけれど、こんな素材のものは見たことがない。

 チェアを吊り下げている金具部分は鎖状ではなくて、複雑に編み込まれたデザインだった。
 これは金属なのかと尋ねると炭素繊維なのだと教えてくれる。

 「どうして、これは公開していないんですか?」
 「未完成だから」

 ―――これが、未完成?

 新堂さんの言葉に首を傾げる。
 どう見ても完成された作品に見えるし、何か不都合があるようには見えない。

 「座って」
 「えっ!?座っていいんですか?展示なのに?」
 「座らないと完成しない」

 新堂さんの意図が分からなくて、私はますます戸惑うしかなかった。
 展示品に触れたことなどない。ましてや座るなんて。

 「あの、いきなり壊れたりしないですよね……?」
 「誰がデザインして作ったと思ってる」

 少し眉をしかめた新堂さんに急かされる形で、私は展示されている台に上がる。
 そして慎重に、透明なハンギングチェアにゆっくりと腰を下ろした。
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