ハニートラップ
Prologue
新しい制服がやっと馴染み始めた高校1年生の5月。
雨の日の昼休み。
光の届かない薄暗さ。
積み上がる段ボールと、埃の匂い。
隔離された空き教室の片隅で、私は知らない男の影の下にいる。
背中にひやりと冷たい無慈悲な壁。
声を出したって誰にも聞こえることはない。
「――やっと会えた。」
実感を込めて微笑む薄い唇。
甘やかなブロンド髪の隙間から、キラリとシルバーのピアスが光っている。
シュッと細くなるタレ目がちの瞳が、不安も心も絡めとる。
少しずつ、視界が彼でいっぱいになった。
吐息が交わったと思った途端、ふわりと唇に押し当たる生々しい柔らかさ。
――初めて知った、キスの感触。
この日からだ。
平凡な日常も、
失恋の痛みも、
全部、高峰くんが奪っていった。
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