こじらせCEOの壮大すぎる初恋計画 〜二代目女社長、冷徹なライバルに理不尽な政略結婚を迫られたはずが、すべては22年前からの策略でした!?〜
「お店を出すのも維持するのも、とても大変なのよ」
 家賃、材料費、人件費。毎月大変なのは、店も会社も一緒だろう。
 それを簡単に潰すというなんて、自分の店ではないけれど聞き流すことなんてできない。
 
 こういう店舗は立地に左右されるし、競争相手がいたら売り上げは落ちてしまう。
 集客も大変で、店を作ったからといってお客がどんどんくるわけでもない。
 流行りのネイル、新しい技術、新しい機材も必要で、客が選んだ色はありませんだなんて言えない。
 だから壁にあんなにたくさんのマニキュアが並んでしまうのだ。
 
「このお店は清潔感もあるし、接客も丁寧だし、なにより技術も素晴らしくて、とてもいい店だわ」
 遥の言葉を聞いた店長はペコリとお辞儀をしてくれた。

「でもあんたみたいな客」
「店は客を選べないの」
 お嬢様みたいな子でも相手をしないといけないのよ。
 可哀想に。
 
「それに、私が利用したから潰すのだったら、伊集院製薬も潰れてもらわないといけないわ」
 伊集院製薬の頭痛薬を買ったことがあると遥が口の端を上げると、お嬢様はギリッと奥歯を鳴らした。

「さぁ、どうする? この店と伊集院製薬の両方を潰すのか、どちらも潰さないのか」
「なんで」
「私が利用したから」
 遥がニッコリ微笑むと、お嬢様は悔しそうに唇を噛みながらツカツカと扉に向かって歩く。
 お付きの渡部が急いで扉を開け、日傘を差し、お嬢様を甲斐甲斐しく世話する様子をガラスの扉から眺めながら、遥は大きく息を吐いた。

「……お騒がせしてごめんなさいね」
「ありがとうございました」
 店長が遥に頭を下げると、他の店員も一斉に頭を下げる。
 お礼を言われるような立場じゃないのに。
 私のせいで店が脅されたのに。

「今、ここにいるお客様のネイル代、私が払うわ」
 このネイルサロンのお値段がいくらなのかはわからないけれど、お客さんは3人だから節約すればなんとかなるはずだ。
 
「嫌な気分にさせてしまってごめんなさい。お店にはなんの落ち度もないから、できれば今の揉め事は見なかったことにしてもらえたらうれしいわ」
 遥は3人の客に謝罪すると、カードで支払いをすませる。

「もし風評被害や嫌がらせがあったら、ここに」
 私にできることは少ないけれどと付け加えながら、遥は鞄から名刺を取り出し、店長に渡した。
 
「本当にごめんなさい」
 遥は謝罪しながらネイルサロンを出ると、お日様の下でも美しいネイルを見ながら目を伏せた。
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