さよならの代わりに授かった宝物
第十章:背徳のガーディアン
勇気の告白によって暴かれた、あまりにも残酷な過去。
萌香がその重さを受け止めきれないまま、現実は容赦なく牙を剥いた。
事態が動いたのは、勇気が蓮のDNA鑑定書を正式に受理した、まさにその直後だった。
「……勇気、緊急連絡よ」
無線越しの佐倉の声は、張りつめている。
「お前のマンション周辺に、不審車両が三台。
桐生建設の“裏の帳簿”を狙ってる残党だと思っていい」
萌香の心臓が、強く跳ねた。
父が死の間際まで隠し持っていたという、政界汚職の証拠。
それを――娘の自分が持っていると、今も信じている連中。
「萌香」
勇気は即座に彼女の方を向いた。
「蓮を連れて、奥の部屋へ。
鍵を掛けて、俺が呼ぶまで絶対に出るな」
ホルスターから拳銃を抜き、手慣れた動作で装填する。
その瞳は、さきほどまでの熱に揺れたものではない。
冷静で、鋭く、けれど――迷いのない覚悟を帯びていた。
「……勇気さん、行かないで」
萌香は彼の腕を掴む。
「彼らは、私を狙ってるんでしょう?
だったら、私が――」
「行かせるわけがない」
被せるように、低く言い切る。
「君を危険に晒すくらいなら、俺が全部引き受ける」
勇気は萌香の頬に手を添え、額にそっと唇を落とした。
「……君の人生を壊したのは俺だ。
だから、守り抜く責任も俺にある」
「勇気さん……」
「大丈夫だ」
微笑みは、驚くほど穏やかだった。
「俺は、君と蓮を残して死ぬほど無責任じゃない」
その直後――
マンションの電気が一斉に落ち、非常用電源の赤いランプが廊下を照らす。
勇気は、公安の規定である「応援を待て」という指示を無視した。
応援を待てば、萌香と蓮は“重要参考人”として拘束される。
それだけは、絶対に選べなかった。
無線を切り、床に叩きつける。
「……高畑! 何をする気!? ルールを破るつもり!?」
佐倉の叫びを、勇気は静かに遮った。
「ルールは守るためにある。
だが――今日は、守るものが違う」
一拍置いて、はっきりと言う。
「俺は今日で、公安の警視を辞める。
……これからは、ただの夫で、ただの父親だ」
暗闇の中、ドアが激しく蹴破られる音。
勇気は、萌香が一生触れずに済むはずだった
暴力の世界そのものを、背中で引き受けるように
一人で前に立ちふさがった。
銃声。
火花。
怒号。
奥の部屋で、萌香は蓮を胸に抱き、必死に祈っていた。
(利用されたはずなのに……
どうして、この人は命まで懸けて……)
数分後。
静寂が戻ったリビングに、血の匂いを纏った勇気が姿を現す。
肩を負傷し、荒い息を吐きながらも――
彼は萌香を見ると、安堵したように、ふっと笑った。
「……無事か」
「勇気さん……!」
萌香は駆け寄り、血に汚れた彼の胸に飛び込む。
「怖かっただろう。
……すまない」
「どうして……」
涙に濡れた声。
「私は、あなたに利用されただけの女なのに……」
勇気は、無事な方の腕で、強く抱きしめた。
「違う」
低く、はっきりと。
「俺は、君を失って初めて気づいた。
……君がいない人生なんて、もう選べない」
蓮が目を覚まして泣き出すと、勇気はその小さな体も一緒に抱き寄せる。
「ほら……大丈夫だ」
震える声で、けれど確かに父親の声で。
「俺がいる。
もう、誰にも触れさせない」
公安という地位も、正義も、すべてを捨てて選んだ“家族”。
エリート警視としての歪んだ独占は、ここで終わりを告げる。
そして――
血と罪と、それでも手放せない愛を抱えた
本当の「家族」の物語が、ここから始まろうとしていた。
萌香がその重さを受け止めきれないまま、現実は容赦なく牙を剥いた。
事態が動いたのは、勇気が蓮のDNA鑑定書を正式に受理した、まさにその直後だった。
「……勇気、緊急連絡よ」
無線越しの佐倉の声は、張りつめている。
「お前のマンション周辺に、不審車両が三台。
桐生建設の“裏の帳簿”を狙ってる残党だと思っていい」
萌香の心臓が、強く跳ねた。
父が死の間際まで隠し持っていたという、政界汚職の証拠。
それを――娘の自分が持っていると、今も信じている連中。
「萌香」
勇気は即座に彼女の方を向いた。
「蓮を連れて、奥の部屋へ。
鍵を掛けて、俺が呼ぶまで絶対に出るな」
ホルスターから拳銃を抜き、手慣れた動作で装填する。
その瞳は、さきほどまでの熱に揺れたものではない。
冷静で、鋭く、けれど――迷いのない覚悟を帯びていた。
「……勇気さん、行かないで」
萌香は彼の腕を掴む。
「彼らは、私を狙ってるんでしょう?
だったら、私が――」
「行かせるわけがない」
被せるように、低く言い切る。
「君を危険に晒すくらいなら、俺が全部引き受ける」
勇気は萌香の頬に手を添え、額にそっと唇を落とした。
「……君の人生を壊したのは俺だ。
だから、守り抜く責任も俺にある」
「勇気さん……」
「大丈夫だ」
微笑みは、驚くほど穏やかだった。
「俺は、君と蓮を残して死ぬほど無責任じゃない」
その直後――
マンションの電気が一斉に落ち、非常用電源の赤いランプが廊下を照らす。
勇気は、公安の規定である「応援を待て」という指示を無視した。
応援を待てば、萌香と蓮は“重要参考人”として拘束される。
それだけは、絶対に選べなかった。
無線を切り、床に叩きつける。
「……高畑! 何をする気!? ルールを破るつもり!?」
佐倉の叫びを、勇気は静かに遮った。
「ルールは守るためにある。
だが――今日は、守るものが違う」
一拍置いて、はっきりと言う。
「俺は今日で、公安の警視を辞める。
……これからは、ただの夫で、ただの父親だ」
暗闇の中、ドアが激しく蹴破られる音。
勇気は、萌香が一生触れずに済むはずだった
暴力の世界そのものを、背中で引き受けるように
一人で前に立ちふさがった。
銃声。
火花。
怒号。
奥の部屋で、萌香は蓮を胸に抱き、必死に祈っていた。
(利用されたはずなのに……
どうして、この人は命まで懸けて……)
数分後。
静寂が戻ったリビングに、血の匂いを纏った勇気が姿を現す。
肩を負傷し、荒い息を吐きながらも――
彼は萌香を見ると、安堵したように、ふっと笑った。
「……無事か」
「勇気さん……!」
萌香は駆け寄り、血に汚れた彼の胸に飛び込む。
「怖かっただろう。
……すまない」
「どうして……」
涙に濡れた声。
「私は、あなたに利用されただけの女なのに……」
勇気は、無事な方の腕で、強く抱きしめた。
「違う」
低く、はっきりと。
「俺は、君を失って初めて気づいた。
……君がいない人生なんて、もう選べない」
蓮が目を覚まして泣き出すと、勇気はその小さな体も一緒に抱き寄せる。
「ほら……大丈夫だ」
震える声で、けれど確かに父親の声で。
「俺がいる。
もう、誰にも触れさせない」
公安という地位も、正義も、すべてを捨てて選んだ“家族”。
エリート警視としての歪んだ独占は、ここで終わりを告げる。
そして――
血と罪と、それでも手放せない愛を抱えた
本当の「家族」の物語が、ここから始まろうとしていた。