これはもはや事故です!
「……美羽さん?」

「ひゃっ、な、なんですか!?」

「さっきから……なんだかぎこちないな。何か嫌なことをしたなら言ってほしい」

(やだ……気づかれた……)

「だ、大丈夫です。磯崎さんには大変良くして頂いておりますっ」

 語尾が跳ね上がる。
 自分でも驚くほど不自然な敬語が飛び出して、美羽はさらに混乱した。

「……そう?」 

 磯崎はほんの一瞬だけ、寂しそうに眉を下げた。
 その変化が胸に刺さる。

(ち、違う……! 嫌なわけじゃないの。むしろ……その……)

 心の中の言葉は、口に出る前に絡まってしまう。


 磯崎はそれ以上追及しなかった。
 ただ静かに頷き、袋をそっと美羽の膝の上に置いた。

「じゃあ……着替え、渡して置く。痛みが出たらすぐ呼んでくれ」

「……はい」

 短い返事しかできない。

 磯崎は立ち上がり、少し離れた位置へ歩いていった。
 その背中が、ほんの少しだけ遠く見える。

(あ……やだ。これ、誤解させてる……?)

 胸の奥が詰まったようにじんわり苦しくなった。

 優しくされると揺れる。
 揺れるからこそ、距離を取ろうとして……。
 その結果、また誤解を生んでしまう。

(……どうしよう。どうすればいいの、私)

 言えない気持ちが喉に残ったまま、部屋には静かな空気だけが落ちていった。
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