重力圏外のプロポーズ、軌道修正は不可能です~宇宙飛行士は恋に不器用~
昊は、暫く黙ったまま立ち尽くしていた。
その表情に、怒りも焦りもない。ただ、何かを深く考えているような、そんな顔。
「……失礼しま……」
彼は一歩引きかけたが、ふと立ち止まり、再び結月を見つめた。
「USSAからの条件が、“既婚者のみ”なんです。私は宇宙滞在プロジェクトの一員に選ばれましたが、今のままでは参加資格がありません。このままだと、夢を目前にして、降ろされる可能性がある。それを覆す唯一の方法が、『結婚』なんです。……あなたが、その鍵を握っている」
その声はあまり抑揚のない感じだが、 彼の誠実な態度は伝わってきた。
(この人、本気で言ってる。しかも、全力で。突拍子もない申し出なのに、冗談の気配は一切ない。むしろ、あまりにも真剣すぎて、逆に怖いくらいだ)
「……少し、考えさせて貰えますか?」
「もちろんです。急かすつもりはありません。連絡先は、名刺に」
昊は軽く頭を下げると、静かに店を後にした。
その背中を、結月は呆然と見送った。