危険すぎる恋に、落ちてしまいました。3【完結】
5.ほんの些細な事で
次の日の朝。
春の空気はやわらかく、校舎へ続く道には淡い光が満ちていた。
椿と美羽は、いつも通り並んで歩いている。
けれど、歩幅も、沈黙も、どこかぎこちない。
昨日までなら、自然に重なっていた会話が、今日は少し遠い。
美羽は、椿の横顔をちらりと盗み見た。
いつもより、少しだけ硬い表情。
(……やっぱり、昨日のこと引きずってるのかなぁ…)
意を決して、声をかける。
「椿くん…あのね!」
椿は、はっとしたように視線を戻す。
だが、どこか上の空だ。
「ん?どうした?」
美羽は一瞬言葉を選び、唇を噛んだ。
「昨日の事で、ちょっと…。」
けれど椿は、あっさりと言った。
「あぁ、気にしなくていい。俺もどうかしてた。」
その言葉に、美羽の胸が小さく跳ねる。
「え…、そうなの?」
(ええ…、私、昨日椿くんの事で色々悩んだのに…なんか軽くない??)
心の中で、もやっとしたものが広がっていく。
椿は椿で、頭の中が別のことでいっぱいだった。
(秋人はこの際どうでもいい。とにかく、美羽に色々と話さねぇと…)
だが、どう切り出すべきか分からない。
言葉が喉の奥で詰まったまま、時間だけが進んでいく。
昇降口が見えてきた頃。
椿は、足を止める。
「美羽」
呼ばれて、美羽は上靴に履き替えながら顔を上げる。
「ん?どうたの、椿くん?」
椿は一瞬、視線を泳がせたあと――。
「帰り、ちょっと話が…」
そこへ。
「美羽ちゃーん!おはよう~♪」
間の悪い、よく通る声。
悠真が、いつもの明るさで駆け寄ってきた。
「おはよう、悠真くん。今日も元気だねぇ~」
美羽は苦笑いする。
「朝から美羽ちゃんの顔見れたら、そりゃ元気でるでしょ~♪ね、椿~?」
椿は、言いかけていた言葉を飲み込み、ため息をついた。
「…あぁ、そうなんじゃねぇの?」
声音が、少し荒い。
「何々~?椿、嫉妬は見苦しいよ?」
悠真はニヤニヤしながら、美羽の肩に手を置いた。
次の瞬間。
バシッ。
椿は、悠真の手を勢いよく払った。
「朝から、うぜぇ」
眉間に皺を寄せた椿に、悠真は固まる。
美羽も目を見開いた。
「ちょっと、椿くん?!そんなに酷い言い方しなくてもいいじゃない。いつもの冗談でしょ?」
椿は、噛みつくように返してしまう。
「なんだよ。お前な、いちいち触らせすぎなんだよ。ちょっとは注意しろ。」
言った瞬間、はっとする。
「あ、悪ぃ…」
だが、その謝罪は届かなかった。
美羽の感情が、堰を切ったように溢れる。
「何それ。そんな言い方ないでしょ?!やっぱり、昨日の事気にしてるんじゃない。私が秋人くんと仲いいからって…、だって友達だよ?!話すのは当たり前じゃない。そんな事でいちいちイライラされてたら、私友達できないよ!」
「え、美羽ちゃん?秋人くんと仲いいの?!僕ショックなんだけど…」
悠真は顔を青くする。
「え?!いや、仲いいというか…いや、ちがうか!それは言葉のあやで…」
慌てて言い直すが、もう遅い。
椿の表情が、すっと冷えた。
「そうかよ。じゃぁ、仲良く友達ごっこでもすりやぁいいだろ。」
そう言い捨てて、椿はその場を離れた。
「はぁ?!何それ?!ちょっと、悠真くんきいてた?ねぇ!あれ…?」
美羽は悠真の袖を掴み、ぐらぐら揺らす。
だが悠真は、真っ青になって固まっている。
「ええ、悠真くん?!ちょっと?!」
静かな廊下に、美羽の声だけが響いた。
椿の背中は、振り返らない。
(……違う)
(こんな言い方したかったわけじゃねぇ)
けれど、立ち止まる勇気も、今はなかった。
春の朝の光は、やさしいはずなのに。
二人の間には、静かに距離が生まれていた。
春の空気はやわらかく、校舎へ続く道には淡い光が満ちていた。
椿と美羽は、いつも通り並んで歩いている。
けれど、歩幅も、沈黙も、どこかぎこちない。
昨日までなら、自然に重なっていた会話が、今日は少し遠い。
美羽は、椿の横顔をちらりと盗み見た。
いつもより、少しだけ硬い表情。
(……やっぱり、昨日のこと引きずってるのかなぁ…)
意を決して、声をかける。
「椿くん…あのね!」
椿は、はっとしたように視線を戻す。
だが、どこか上の空だ。
「ん?どうした?」
美羽は一瞬言葉を選び、唇を噛んだ。
「昨日の事で、ちょっと…。」
けれど椿は、あっさりと言った。
「あぁ、気にしなくていい。俺もどうかしてた。」
その言葉に、美羽の胸が小さく跳ねる。
「え…、そうなの?」
(ええ…、私、昨日椿くんの事で色々悩んだのに…なんか軽くない??)
心の中で、もやっとしたものが広がっていく。
椿は椿で、頭の中が別のことでいっぱいだった。
(秋人はこの際どうでもいい。とにかく、美羽に色々と話さねぇと…)
だが、どう切り出すべきか分からない。
言葉が喉の奥で詰まったまま、時間だけが進んでいく。
昇降口が見えてきた頃。
椿は、足を止める。
「美羽」
呼ばれて、美羽は上靴に履き替えながら顔を上げる。
「ん?どうたの、椿くん?」
椿は一瞬、視線を泳がせたあと――。
「帰り、ちょっと話が…」
そこへ。
「美羽ちゃーん!おはよう~♪」
間の悪い、よく通る声。
悠真が、いつもの明るさで駆け寄ってきた。
「おはよう、悠真くん。今日も元気だねぇ~」
美羽は苦笑いする。
「朝から美羽ちゃんの顔見れたら、そりゃ元気でるでしょ~♪ね、椿~?」
椿は、言いかけていた言葉を飲み込み、ため息をついた。
「…あぁ、そうなんじゃねぇの?」
声音が、少し荒い。
「何々~?椿、嫉妬は見苦しいよ?」
悠真はニヤニヤしながら、美羽の肩に手を置いた。
次の瞬間。
バシッ。
椿は、悠真の手を勢いよく払った。
「朝から、うぜぇ」
眉間に皺を寄せた椿に、悠真は固まる。
美羽も目を見開いた。
「ちょっと、椿くん?!そんなに酷い言い方しなくてもいいじゃない。いつもの冗談でしょ?」
椿は、噛みつくように返してしまう。
「なんだよ。お前な、いちいち触らせすぎなんだよ。ちょっとは注意しろ。」
言った瞬間、はっとする。
「あ、悪ぃ…」
だが、その謝罪は届かなかった。
美羽の感情が、堰を切ったように溢れる。
「何それ。そんな言い方ないでしょ?!やっぱり、昨日の事気にしてるんじゃない。私が秋人くんと仲いいからって…、だって友達だよ?!話すのは当たり前じゃない。そんな事でいちいちイライラされてたら、私友達できないよ!」
「え、美羽ちゃん?秋人くんと仲いいの?!僕ショックなんだけど…」
悠真は顔を青くする。
「え?!いや、仲いいというか…いや、ちがうか!それは言葉のあやで…」
慌てて言い直すが、もう遅い。
椿の表情が、すっと冷えた。
「そうかよ。じゃぁ、仲良く友達ごっこでもすりやぁいいだろ。」
そう言い捨てて、椿はその場を離れた。
「はぁ?!何それ?!ちょっと、悠真くんきいてた?ねぇ!あれ…?」
美羽は悠真の袖を掴み、ぐらぐら揺らす。
だが悠真は、真っ青になって固まっている。
「ええ、悠真くん?!ちょっと?!」
静かな廊下に、美羽の声だけが響いた。
椿の背中は、振り返らない。
(……違う)
(こんな言い方したかったわけじゃねぇ)
けれど、立ち止まる勇気も、今はなかった。
春の朝の光は、やさしいはずなのに。
二人の間には、静かに距離が生まれていた。