危険すぎる恋に、落ちてしまいました。3【完結】
8.夏休みと4年分の約束
とうとう夏休みが始まった。
蝉の声が朝から遠慮なく鳴り響き、窓から差し込む日差しは、これまでより少しだけ強く感じられる。
高校三年生、最後の夏。
美羽は、リビングのテーブルの前に正座していた。
背筋を伸ばし、膝の上で拳をぎゅっと握る。
向かいには、腕を組んだ父と、エプロン姿の母。
空気が、重い。
「……それで?」
母が先に口を開いた。
「美羽。改めて聞くけど、将来のことを相談したいっていうのは——」
美羽は深呼吸をして、顔を上げた。
「うん。あの……椿くんがね、卒業後に留学するかもしれなくて」
「その話を、ちゃんと二人にしたくて」
言い終わる前に——
「ダメだ!!」
テーブルを叩く音。
父だった。
「パパはそんな子に育てた覚えはありません!!」
立ち上がり、涙目で叫ぶ。
「そんな、どこの馬の骨かもわからない野郎に!!」
「パパの美羽は!!」
「——あげませんんんん!!」
完全に泣いている。
美羽は思わず引いた。
「ちょ、ちょっとパパ!!」
「まだ決まったわけじゃないし!」
「ちゃんと話を聞いてよ!!」
必死に言葉を重ねる。
「それに、私だってちゃんとテスト頑張ってるし!」
「この前の英語、92点だったんだよ?!」
しかし父は、耳を塞ぐ勢いだった。
「聞きません!!」
「聞かないって今決めました!!」
「パパはもう心がズタズタです!!」
暖簾に腕押し。
完全に感情論。
横で見ていた母は、ため息をひとつ。
「……美羽」
「さすがに話が飛びすぎよ?」
その声は、いつもより少し厳しい。
「留学って、そんな簡単な話じゃないわよ?」
「それに——」
母は美羽をまっすぐ見つめた。
「椿くんはいいとして」
「アメリカで、美羽は何を目指して行動するの?」
「旅行でもないし、遊びじゃないのよ?」
胸に、ぐさりと刺さる。
「そ、それは……」
美羽は言葉に詰まる。
「向こうに行ってから……考えよう、かなって……」
自分でも苦しい言い訳だと分かっていた。
母はおたまを置き、静かに続ける。
「美羽」
「大好きな人と一緒にいたい気持ちは、ママも分かるわ」
「でもね、それだけじゃ、これから先はやっていけないのよ」
優しいのに、逃げ道がない言葉。
(……そんなこと)
(わかってるよ……)
(わかってるけど……)
胸の中が、ぐちゃぐちゃに絡まっていく。
そのとき——
「とにかく!!」
父が立ち上がった。
「美羽!」
「明日から実家に戻ります!!」
「そこで、恋愛に現ぬかしている情けない自分を見つめ直しなさい!!」
「いいね?!」
そして唐突に——
「パパは今晩、枕を濡らして寝るからぁぁぁ!!」
勢いよくリビングを出ていく。
「ちょ、ちょっと待ってよパパ!!」
美羽は立ち上がり、追いかけようとした。
「実家って何?!何の話?!それこそ聞いてないんだけど!!」
しかし、母の手が肩に置かれる。
「はいはい、落ち着いて美羽」
にこにこしながら、料理を続ける母。
「何って、明日から夏休みでしょ?」
「パパの実家にお泊まりするのよ」
「今晩、ちゃんと用意しときなさいね?」
あまりにもさらっと。
「……はぁぁぁあ!?」
美羽の声が、リビングに木霊した。
(高3最後の夏休みなのに!!)
(なんでこんな展開になるの!!)
窓の外では、蝉が元気よく鳴いている。
夏は、始まったばかりだった。
——そしてこの夏は、
美羽にとって「恋」と「将来」を真正面から突きつける、
忘れられない季節になっていくのだった。
蝉の声が朝から遠慮なく鳴り響き、窓から差し込む日差しは、これまでより少しだけ強く感じられる。
高校三年生、最後の夏。
美羽は、リビングのテーブルの前に正座していた。
背筋を伸ばし、膝の上で拳をぎゅっと握る。
向かいには、腕を組んだ父と、エプロン姿の母。
空気が、重い。
「……それで?」
母が先に口を開いた。
「美羽。改めて聞くけど、将来のことを相談したいっていうのは——」
美羽は深呼吸をして、顔を上げた。
「うん。あの……椿くんがね、卒業後に留学するかもしれなくて」
「その話を、ちゃんと二人にしたくて」
言い終わる前に——
「ダメだ!!」
テーブルを叩く音。
父だった。
「パパはそんな子に育てた覚えはありません!!」
立ち上がり、涙目で叫ぶ。
「そんな、どこの馬の骨かもわからない野郎に!!」
「パパの美羽は!!」
「——あげませんんんん!!」
完全に泣いている。
美羽は思わず引いた。
「ちょ、ちょっとパパ!!」
「まだ決まったわけじゃないし!」
「ちゃんと話を聞いてよ!!」
必死に言葉を重ねる。
「それに、私だってちゃんとテスト頑張ってるし!」
「この前の英語、92点だったんだよ?!」
しかし父は、耳を塞ぐ勢いだった。
「聞きません!!」
「聞かないって今決めました!!」
「パパはもう心がズタズタです!!」
暖簾に腕押し。
完全に感情論。
横で見ていた母は、ため息をひとつ。
「……美羽」
「さすがに話が飛びすぎよ?」
その声は、いつもより少し厳しい。
「留学って、そんな簡単な話じゃないわよ?」
「それに——」
母は美羽をまっすぐ見つめた。
「椿くんはいいとして」
「アメリカで、美羽は何を目指して行動するの?」
「旅行でもないし、遊びじゃないのよ?」
胸に、ぐさりと刺さる。
「そ、それは……」
美羽は言葉に詰まる。
「向こうに行ってから……考えよう、かなって……」
自分でも苦しい言い訳だと分かっていた。
母はおたまを置き、静かに続ける。
「美羽」
「大好きな人と一緒にいたい気持ちは、ママも分かるわ」
「でもね、それだけじゃ、これから先はやっていけないのよ」
優しいのに、逃げ道がない言葉。
(……そんなこと)
(わかってるよ……)
(わかってるけど……)
胸の中が、ぐちゃぐちゃに絡まっていく。
そのとき——
「とにかく!!」
父が立ち上がった。
「美羽!」
「明日から実家に戻ります!!」
「そこで、恋愛に現ぬかしている情けない自分を見つめ直しなさい!!」
「いいね?!」
そして唐突に——
「パパは今晩、枕を濡らして寝るからぁぁぁ!!」
勢いよくリビングを出ていく。
「ちょ、ちょっと待ってよパパ!!」
美羽は立ち上がり、追いかけようとした。
「実家って何?!何の話?!それこそ聞いてないんだけど!!」
しかし、母の手が肩に置かれる。
「はいはい、落ち着いて美羽」
にこにこしながら、料理を続ける母。
「何って、明日から夏休みでしょ?」
「パパの実家にお泊まりするのよ」
「今晩、ちゃんと用意しときなさいね?」
あまりにもさらっと。
「……はぁぁぁあ!?」
美羽の声が、リビングに木霊した。
(高3最後の夏休みなのに!!)
(なんでこんな展開になるの!!)
窓の外では、蝉が元気よく鳴いている。
夏は、始まったばかりだった。
——そしてこの夏は、
美羽にとって「恋」と「将来」を真正面から突きつける、
忘れられない季節になっていくのだった。