狼少年

4.

私は思い出したんだ。

どこで桂を見たことがあったのか。

風でプリントが飛ばされそうになったとき。

中庭に居たのはアイツだった。

――女に興味ねェから。

――お前に興味わいたから?

待て待て待て。思い返してみたら、桂の言うことは矛盾だらけじゃないか。っていうか私女子だし。

…中庭で見た人と、一昨日見た相手の女の子。違う人だった、気がする。前のときはコンタクト入ってなくてほとんど見えてなかったけど、髪の毛の色とか、長さとかが微妙に違う気がする。

重いため息が出た。

「何、今日のあやこテンション低いね。」

麻由が私の顔を覗き込むようにして指摘する。

「ちょっと目の調子悪くてさ。」

「あー。それで今日そんなださい眼鏡なのね。」

「ほっといてくださいー。」

適当にごまかしたら軽く馬鹿にされた。

今日は日曜日。

桂のラブシーンを目撃してから、ずっと避けてきた。向こうが何か言ってこようとしても、気付かないふりして。

それなのに、今日は不本意ながら一緒に買い物しなきゃいけないんだ。気まずすぎる。

「それにしても、遅いね修司も桂も。」

「忘れてんじゃない?」

「いや、それはない。昨日釘刺しといたし。」

折り畳み式の携帯を開いて、時間を確認する。ちょうど11時になったところだった。
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