さよなら、鏡の前のリボンの私。氷点下の卒業式

髪を落とすたびに、自分に変わっていく。

最後くらいはね、と母さんが髪をきれいにセットしてくれた。

「アユムちゃんカワイーい!」
「やっぱ似合うよ、ハーフアップ」

クラスメイトのおほめのことば。

どこから取り出したのか、さくら色のリボンをつけてくれた。
うん、ありがとう。サキもメグも可愛いよとお返しし。

独り言ちる。
でもね、髪はもういいんだ。

下級生と保護者の方々が待つ体育館。
背を丸め、両腕を抱えて。
すきま風がスースー。

さすが旭川。

でもこれほんと、金管楽器には辛いんだ。
マウスピースは氷みたいだし。
スライドの動きも悪くなるし。

ゴウオーン
ゴウオーン
がんばれ、八台の大型石油ファンヒーター

コホン、ゴホン、クシュン

席のあちこちから聞こえる、咳、それとも涙のごまかしの音?
いやそれはまだ早いか。

卒業証書授与。

来賓の、校長先生の長い話はつつがなく。
在校生の送辞と卒業生の答辞もつつがなく。

そして、卒業式コール。

グシュン、クスン
今度は本当の涙、

最後は、私たちの送り出し。

退場の音楽、蛍の光行進曲を演奏する、わがブラバン部。

ブパパパー、ブパパパー
そしてわがトロンボーンパート。 

バランス悪すぎ。

いやアイツうまくなったけど。
他の子の音量が追いついてないじゃん。
ボントロは、三本ハモってナンボだってあれほど言ってるのにさ。

式のあと、体育館の紅白幕の裏側で同じことをアイツにアドバイスしてやった。

頭を掻いて笑う後輩。
私の手を取って泣く後輩。

シュロロロ、
チョロロ。

外に出たら、

茶色く凍った道路に、細い溝を作って、
春を待っていた濁り水が流れる。

いつの間にか集まって、
いったいどこに流れてく?
なんか私たちみたいだね。

ブパパパー、ブパパパー

外に出ても、トロンボーン軍団が追いかけてきた。

しつこい。うるさい。

せんぱあーい!
バタバタ、パタパタ

ハグだらけの玄関前。

もういいでしょ!
まあいいか、今日が最後だし。

私は卒業する。

卒業するんだ。

中学校を
そして、女子であることも。



ガチャガチャ
バタン。

「ただいま」
「おかえりなさい、そして卒業おめでとう」

一足先に帰ってきていた母さん。

「じゃあ、やってくれるかな、約束どおり」
「アユム、ほんとうにいいの?」
「うん、もちろん」


チョキチョキ。

シャッシャッシャッ

母さんのハサミさばきで
鏡の中の私は、長かった髪を落としていく、

部活は陸上でもやろうかな。
私、足速いんだし。

高校は、まっサラなノオトから。
姿だけじゃない変身。
ほんとうの私になるために。

「あら、けっこう似合うわね」
サッサとブラシをかけながら、鏡のなかの私を褒める母さん。

ありがとう。カッコヨク仕上げてくれて。
ありがとう、理解してくれて。
ありがとう、父さんを説得してくれて。

蛍の光。

私も鏡のなかの自分にあいさつする。

さようなら、私。
こんにちは、ぼ、僕……
いや、やっぱ私でいいか。

ここからだね。



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