スケッチブック

エピローグ/再会

【今色心】

数年後、芽衣子
窓の外は、
雨が降りそうで降らない空だった。
引っ越しの準備をしていて、
段ボールの底から、
見覚えのある角が覗いた。

スケッチブック。
ゴムは伸びて、
紙の端は、少しだけ丸くなっている。

——まだ、持ってたんだ。

机の上に置いて、
ゆっくり開く。
最初のページは、
もう、ほとんど白じゃなかった。
消しゴムの跡。
迷い線。
描ききれなかった横顔。

あの頃は、
色を足すことばかり考えていた。
今見ると、
足さなかった場所のほうが、
よく覚えている。

ぱらり、ぱらりとページをめくる。

バスケのユニフォーム。
汗で濡れた前髪。
描きかけで止まった、目。

——雪。

名前は、
どこにも書いていない。
でも、
線が、知っている。

スマホが、
机の上で震えた。
通知。

📻 作楪:配信開始
「ほらほらぁ、おしゃべりの時間だよ~」

思わず、
小さく笑う。

イヤホンをつけずに、
スピーカーから流す。

「こんばんは。
今日は、余白の話をしようか」

芽衣子は、
鉛筆を取った。
新しいページ。
何を描くかは、
決めない。
ただ、
線を置く。
うまく描こうとは、
しなかった。
昔みたいに、
誰かのためでもない。

——今の自分のため。

雨が、
静かに降り出す。
紙の上で、
鉛筆の音だけが響く。
スケッチブックは、
もう、閉じられなかった。

余韻
青春は、
完成しなかった絵の中に、
一番きれいに残る。
今ならそう思える……

芽衣子は、
それを、
やっと知った。
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