スケッチブック

第一章/迷いの中の優しさの色

【黄色】

――雪

体育館に、バスケットボールの弾む音が響いていた。
床に落ちるたび、乾いた音がして、気持ちがいい。
「先輩、ナイスパスです!」
後輩の声に、自然と笑顔がこぼれる。

別に意識しているわけじゃない。
困っていたら声をかけるし、
頼られたら応える。それだけだ。
そうやっているうちに、
いつの間にか「優しい人」になっていた。
クラスでも同じだった。
話しかけられたら話すし、
誰かが一人なら隣に座る。
それだけのことなのに、
周りは勝手に「人気者」なんて言う。
——でも。

放課後、着替えを終えてスマホを開く。
イヤホンをつけると、聞き慣れた声が流れた。
「こんばんは、作楪です。
今日はちょっとだけ、運がいい日かもね」
ゲームと雑談。
俺の親世代と同じくらいなのに、ゲームしてるし。
三年以上もゲーム配信、それなのに雑談メインでゲームなんて初心者にでもボコボコにされる。
それでもこの人はいつも笑ってて、出逢いに感謝している。
何処だか分からないけど、リスペクトしているんだ。
人生の先輩からの助言。
別に大人の言葉全部を信じているわけじゃない。
ただ、この声を聞くと、頭が整理されるから不思議だ。

誰にでも優しい。
それは、自分でもわかっている。
だけど最近、
一人だけ、気になる存在があった。
教室の端。
スケッチブックを開いて、
いつも静かに鉛筆を動かしている女の子。
目が合うと、すぐに逸らされる。
話しかけようとすると、
なぜかタイミングを失う。
——俺、何かしたかな。
クラスの笑い声の中で、
彼女だけが、少し違う色に見えた。

「優しい人ほど、
本音に気づくのが遅いんだよね」

作楪の言葉に、
なぜか胸がちくりとした。

体育館に差し込む夕方の光は、
明るくて、あたたかい黄色だった。
みんなを同じように照らしているはずなのに、
一部だけ、影ができているみたいだった。
——誰にでも、同じじゃないのかもしれない。
そのことが、
最近ずっと、頭から離れなかった。
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