ダイヤの首輪─先生の歪んだ愛に囚われて─

第21話

 その瞬間、目が覚めた。

 白い天井。
 白いカーテン。
 点滴が腕に繋がっていた。
 病室特有の、無機質な空間。

 そして——夏雄先生。

 ベッドの脇の椅子に座っている。
 スーツが少し乱れて、髪も少し崩れている。

 それから、医者と看護師も。

「気がつきましたね。良かった」
「しばらく様子を見させてもらいますが、大きな問題はないようです」

 何があったの?
 なぜ私は、病院にいるの?
 先生が私の手を握っている。

 その手は、少し震えていた。
 汗ばんでいて、温かい。
 泣きそうな顔をしていた。
 いつもの冷静な先生じゃない。

「どうしたんですか?先生」
「お前が倒れたんだよ、街中で!」

 怒っている。
 でも、その怒りの奥に、心配と安堵が混じっている。

 ああ、確かに暑くてクラクラしてたのは覚えてる。
 それで、先生の姿を見たような気がした。

「もう大丈夫そうですね。しばらく様子を見るので、今日は病院にいてくださいね」

 医者と看護師はそう言って去っていった。

 病室に、私たちだけが残された。

 倒れる前に見た幻。
 あれは本物だったのかな……?

 先生は深いため息をついている。

「先生、明日結婚式ですよね……?」
「ああ」

 そっけない返事。

「ここにいたら、まずくないですか?」
「そうだな」

 それだけ!?

「早く帰った方がいいですよ!」
「お前が一人になるだろうが!」

 また怒鳴る。
 でも、その怒鳴り方には愛情がこもっている。
 本気で心配してくれている。

「医者も看護師もいるから大丈夫ですよ!」

 先生はしばらく口をつぐんでいたけど、何かを考えるような表情で、じっと私を見つめている。

「俺が、いたいんだよ」

 その言葉に、胸がきゅっと締めつけられた。

 嬉しかった。
 本当に、嬉しかった。

 でも——

 これ以上、先生を困らせるわけにはいかない。

「でも……それはまずいですよ」

 私は先生の恋人でも、婚約者でもない。
 ただの元教え子。

「先生、もう行ってください。私のことは忘れてください」

 私は背を向けた。
 先生の顔を見ていると、きっと泣いてしまう。

「あの人を、幸せにしてあげてください」

 その後暫くして、先生は黙って病室を出ていった。
 足音が廊下に響いて、やがて聞こえなくなった。

 涙が出た。
 先生に助けてもらって、でも、先生は他の人のものになる。

 これが最後だと思うと、どうしようもなく寂しい。

 もう一度先生と会えただけでもよかったと思おう。
 これで、本当にお別れ。
 今度こそ、本当に。
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