ダイヤの首輪─先生の歪んだ愛に囚われて─

見透かされていた

 ──土曜日

 朝から憂鬱だった。
 何を着ていこうか散々迷ったけど、私はまたあの日着ていたワンピースを着た。

 愛美と学校近くの駅で待ち合わせた。
 改札を出ると、愛美が手を振って待っていた。
 相変わらず元気そうで、それを見ているだけで少し気持ちが軽くなる。

 二人で学校まで歩いていく。
 土曜日の午後だからか、街は静かだった。
 平日とは違う、のんびりとした空気が流れている。
 愛美は嬉しそうで、「久しぶりに先生に会えるー!何話そうかな!」なんて、ずっとはしゃいでいる。

 私は心臓がドキドキしている。
 一歩学校に近づくたびに、鼓動が早くなっていく。
 それは恋とは違う、もっと──不安に近い感じ。
 まるで、何か得体の知れないものと会いに行くような、そんな恐怖に似た感情だった。

 学校に着いた。

 事務室で用件を伝え、職員室に向かおうとしたその時——
 廊下を歩いていると、背筋に冷たいものを感じた。
 誰かに見られているような、そんな視線を感じた。

「どうしたの?」

 その声に、びっくりして振り返る。
 そこには、やっぱり夏雄先生が立っていた。
 まるで、私が来るのを知っていたかのような表情。
 愛美がいるのに、先生の視線は私だけに向けられていた。

 私はなぜか、体が硬直していた。
 愛美は感動したように先生に話しかけている。
 先生は、あの時と同じ優しい笑顔で応じていた。
 やがて愛美は満足したのか、部活見てくると言って、私を置いて行ってしまった。

「あとで合流しよ~」

 そう言い残して、足早に体育館の方へ向かっていく。

 ──これは想定外。

 私を無理やり連れてきたくせに、ひどいよ……。
 愛美がいてくれるから安心だったのに。

 困っている私のもとに、また先生が近づいてきた。
 廊下に、私たち二人だけ。
 静寂が重くのしかかってくる。
 逃げ場がない。

「また会えたね」

 先生は、私の顔に近づいて囁く。
 全身がゾクゾクして、震えた。

 恐る恐る見上げると、先生は——

 また、あの目をしていた。
 私の心を、すべて見透かしたような目。

「この前のワンピースまた着てきたんだ」

 無意識に着てきてしまってた。

 先生はその時、私の頬に手を伸ばしかけた──

 けど、すぐに止めた。

「これ以上近づいたら、まずいね……」

 先生は私の前を通り過ぎた。

「また会えるといいね」

 その言葉には、どこか含みがあった。
 それは約束なのか、それとも──。
 先生は職員室に入っていった。

 私はその場に立ち尽くしていた。

 先生の心が、まったくわからなかった。
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