拳よりも、強いもの〜俺たちはいつも『曇天』の中に光を掴んだ
我捨楽ー我、捨てて、楽しむ

物語を書き終えた夜、
彼女はノートを閉じて、しばらく動けなかった。

勝った話はほとんど書かなかった。
殴った数も、敵の数も
重要ではなかったからだ。

書いたのは、
二人がどう並んで立っていたか。
二番が前に出て、
三番が後ろに立っていたこと。

そして、
その逆は一度もなかったこと。

画面に映る、短いメッセージ。

「読み終わった」

「……どうだった?」

少し間があって、返事が来る。

「俺、
あんな風に考えていたんだな」

彼女はゆっくり打つ。

「考えてた、というより」

「生きてた、ですね」

彼は、
しばらく返事をしなかった。

そして、ぽつりと届く。

「楽しかったよ」

過去形。

それは初めて聞く言葉だった。


「我捨楽って、
我、捨てて、楽しむ、ですよね」

彼女がそう送ると、
返事はすぐに来た。

「あぁ」

「あいつも、そう言っていた」

彼女は、
ノートの最後のページに一行だけ書き足す。

我捨楽とは、
強さの名前じゃない。

自分を捨てて、
誰かを選んだ、
青春の呼び名だ。

物語の最後に、
彼女はこう記した。

二人は今も友達で、
今も相棒だ。

それで、
充分だと思う。

ものがは、ここで終わる。
でも二人の関係は、終わらない。

それを、
彼女はもう知っている。
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