愚かな婚約者様、あなたの"浮気相手"は私の味方ですよ? 〜手を組んだ2人の才女による華麗なる制裁〜

エピローグ

 カトリーヌとエルベルトがファーブル王国に戻った日から一週間が経過した。

 この一週間はファーブル王国にとってとても大変で慌ただしい日々になったが、国はいい方向に進んでいると言えるだろう。

「カトリーヌ、改めてセドリックとの婚約破棄おめでとう!」

 今はコルディエ侯爵家の屋敷の庭で、お茶会をしているところだ。参加者はカトリーヌとコレット、そしてエルベルトである。

「ありがとう。コレットのおかげよ」
「色々と予想外なことも多くて大変だったけど、作戦が上手くいって良かったわ。セドリックはもう表に出てくることはないし、心配はなくなったわね」

 セドリックは廃嫡された上で、国家反逆罪として普通の牢屋に捕えられているのだ。もう表に出てくることは一生ない。

 一生牢屋で過ごすことになるか、どこかの厳しい鉱山で働くことになるか、もしくは死罪となるか。その辺りだろうと予想されていた。

「ええ、これからは自分の幸せも追求するわ」

 自然とそう言ったカトリーヌに、コレットはニヤニヤとした笑みを浮かべる。

「本当に変わったわね〜。とてもいい傾向よ。やっぱりエルベルト様のおかげかしら」

 その言葉にカトリーヌが頬を赤くする中、エルベルトは堂々とカトリーヌの肩を抱いた。

「カトリーヌのことは絶対に幸せにするからな。自らを犠牲にしている暇など与えない」
「さすがエルベルト様! 私はやっと安心できます」
「カトリーヌのことは任せてくれ」
「本当によろしくお願いします。お二人の婚約と結婚が決まって良かったですわ」

 実はこの一週間で、カトリーヌとエルベルトの婚約は正式に承認されたのだ。エルベルトが竜族ということもあり、絶対に逃してはいけないと数日で素早く承認された。

 ちなみに承認したのは、次期国王に内定した王弟殿下だ。現在の国王は息子セドリックが国家反逆罪を冒した責任を取り、近いうちに玉座を降りることになっている。その後は田舎の保養所にある王家の別荘で、軟禁状態で一生を過ごすことになるらしい。

「これで正式にカトリーヌとずっと一緒にいられる。本当に幸せだ」

 心から幸せそうな笑みを浮かべたエルベルトがカトリーヌに視線を向け、その視線を受けたカトリーヌはさらに頬を赤く染めながらも頷いた。

「わたしも、幸せです。ただわたしが子爵位を継ぐのは少しだけ心配ですが……」

 二人の結婚に際して、二人の立場をどうするのかは少し揉めたのだ。最終的にはコルディエ侯爵が持っていたもう一つの爵位である子爵をカトリーヌが継ぎ、エルベルトがそこに婿として入ることになった。

 竜族であるエルベルトが人間の国で爵位を持つのは避けたいと、名誉爵位を辞退したことと、ファーブル王国には特殊な事情の場合は女性でも爵位を継げるという規定があったため、この形になった。

「カトリーヌなら大丈夫よ。真面目で頭が良くて、貴族家の当主だってやっていけるわ。苦手な社交だってエルベルト様がいれば問題ないもの」

 適当な感じで告げたコレットだが、これは正しい。

 エルベルトの存在はとても大きく、コルディエ子爵家には多くの貴族が縁を結ぼうと群がることになるだろう。しかしエルベルトが竜族であるため、悪どいことを企む者はほとんどいないと予想される。

 竜族への悪事は、そのまま竜神を裏切ることになるからだ。ファーブル王国、いや、この世界の者たちは基本的に信仰心が強い。実際に竜族や竜がいるのだから当然だろう。

「俺が助ける」
「ありがとうございます。……でも、わたしも苦手を克服できるように頑張ります」

 決意を表明したカトリーヌに、エルベルトは甘い眼差しを向けていた。

 その様子に苦笑しつつ、コレットが口を開く。

「エルベルト様は騎士団の特別顧問に就任されるのですよね?」
「ああ、主に攻撃魔法の魔道具に関することが仕事になるだろう」

 攻撃魔法の魔道具は、しっかりと管理しながら少しずつ使っていく方針になったのだ。竜族の集落とも、これからは魔道具に関連した繋がりを持つ方針である。

 もちろんその場合に中心となるのは、エルベルトとカトリーヌだ。これからは二人が契機となり。竜族と人間の距離が縮まるのかもしれない。

 ちなみに竜族の集落への報告はまだなので、近いうちに向かう予定だ。カトリーヌとエルベルトは基本的にファーブル王国で過ごしつつ、たまに集落にも顔を出す生活になる。

「もし騎士団でいい方がいたら、紹介してくださいませんか? お二人を見ていたら、私も結婚がしたくなりました」

 コレットからの頼みに、エルベルトは躊躇いなく頷いた。

「もちろんだ。コレットにはいくら感謝してもし足りないからな」
「コレット、わたしも力になるわ。コレットにはたくさんお礼をしないと、わたしの気が済まないの」

 カトリーヌも名乗りを上げると、コレットは楽しそうに笑う。

「凄く心強い味方ね。最高の婚約者を見つけてやるわ!」

 拳を突き上げたコレットに、さっそくエルベルトが問いかけた。

「どういう相手が好みなんだ? やはり騎士団から紹介してほしいということは、強い男か?」
「そうですね〜。強いけど不器用な人が好きです。強いのに優しいみたいなギャップに萌えます。年齢は少し歳上ぐらいがいいですけど、歳下もありであまり拘りません。あ、あと浮気する人は絶対に嫌です!」
「ほう。なんとなく分かってきたぞ」
「コレット、相手の身分にこだわりはあるの?」

 少し悩んだコレットは、冗談のように言った。

「私って割と王妃とか向いてると思うのよね〜。まあ、それは冗談」
「わたしもそう思う」

 コレットは冗談だったが、カトリーヌはずっと思っていたので、真剣に頷いた。コレットは社交がとても得意で最近の流行に明るく、頭が良くて策略を張り巡らす度胸もあるのだ。それでいてとても可愛らしい。

 カトリーヌはずっと、コレットの方が王妃に向いていると思っていた。

「確かにコレットは王妃に向いているだろうな」
「王弟殿下のご子息はわたしたちより二歳下よね。歳下もありなんでしょ? 聡明で優しい方だって噂は聞いたけど」
「ほう、それはありではないか? 今度王弟と話す機会があるので、それとなく話を聞いてくることはできる」

 一気に進む話に、さすがのコレットも目を瞬かせて固まっていたが、カトリーヌとエルベルトの視線が集まったところでやっと動きを再開させた。

 お茶を一口飲んでから、落ち着きを取り戻すように深呼吸をして、ゆっくりと口を開く。

「それはさすがに無理……と言いたいけど、カトリーヌとエルベルト様ならば可能かしら」
「茶会の席を設けるぐらいはできるだろうな」

 コレットは難しい表情でしばらく悩み、お茶を飲み終わる頃に決意を固めた表情で言った。

「分かったわ。王妃を目指すことにする! エルベルト様、王弟殿下に話をしていただけますか? お茶会の席を設けていただければ、あとは自分で頑張ります。相手の人柄も見極めたいですし」

 頼もしいコレットの言葉に、エルベルトは大きく頷いた。

「分かった。任せてくれ」
「コレット、頑張って。お茶会をすることになったら、その前に新しいドレスなどを買い揃えなければ。全てわたしがプレゼントするわ」

 お礼の一環としてそう伝えると、コレットはやる気満々で拳を握りしめる。

「ありがとう。カトリーヌもドレス選びに付き合ってね。完璧に準備するわ!」

 どこか楽しそうなコレットに、カトリーヌの頬は緩んだ。


 それから紆余曲折あり、コレットが王妃となるのはもう少し先の話だ。

 三人のお茶会は、それからも賑やかなまま、しばらく続いた。カトリーヌとエルベルトは自然と見つめ合い、幸せに笑い合っていた。
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