麗しの桃は攫われる〜狼獣人の番は甘い溺愛に翻弄される〜


 そう思うより早く、モモネリアの身体は勝手に踵を返して、その場を離れていた。声は聞こえなかった。何を話していたのかは、わからない。

 でも、カーヴィンやハルカ、他の者から、リードネストは女性に興味がなかったと聞いている。

 それなのに、あの笑顔を.....先日までモモネリアに向けてくれていたはずの、あの胸を締めつけるような笑顔を....自分以外の女性にも向けていた。

 その事実だけで、モモネリアの心はひどくいたんで、苦しくて。モモネリアは、逃げたのだ。

 涙が、ぽろぽろと溢れて止まらない。



 ......私以外に、あんなに優しく笑わないで。

 ......どうしてその女性の隣にいるの?私には....最近食事のときでさえ、会ってくれなかったのに。

 ........私を見てよ。その子を見ないで。こっちを、向いて。



 さっき見た光景が頭の中をぐるぐるまわり、心の中がそんな醜い思いで真っ黒に染まっていく。




 ......馬鹿みたい。これじゃ、まるで....嫉妬、だわ。



 モモネリアは、この日、初めて『嫉妬』という感情を知った。



 .......リードに会ってから、知らない感情に出会ってばかり。


 リードに会って、愛されることを知って、ただ相手に喜んでほしいと思える温かい気持ちを知って......独占欲や嫉妬みたいなドロドロした黒い気持ちを知った。


 ........こんな私、きっとリードは嫌になるわ。

 .........私は.....どうしたら、いいの?




 その時。
 必死に駆け込んだ自室のドアがノックされた。
< 60 / 184 >

この作品をシェア

pagetop