アイドルのプロ彼女に転職しました
第8話
部屋の外のビーチベッドでうたた寝をしていた玲奈は、チャイムの音で目を覚ました。
辺りはオレンジ色に照らされていて、夕日が海に沈もうとしていた。
(修が帰ってきた)
玲奈は目をこすりながら慌てて部屋のドアを開ける。
「ハハ、寝てたでしょ」
Tシャツと短パンのラフな姿の修が笑顔で立っていた。
「ごめん、ウトウトしちゃって」
玲奈はハッと気づいて髪を整えた。幸い絶望的に乱れた感じにはなっていない。
修は荷物を置くとキッチンに向かい、冷蔵庫からペットボトルの水を取り出した。
「玲奈さんも飲む?」
「え?…うん、ありがとう」
修は玲奈にペットボトルを手渡すと、「二日ぶり」と言ってまた笑顔になった。
(ちょっと…何?…機嫌良すぎない?)
いつもの修は疲れ切った顔で帰ってきて、リンに出迎えられると脱力する、というパターンだ。
MVの撮影はそれほどハードではなかったのだろうか? それとも、現場が楽しかったのか?
「玲奈さん、こっち来て。夕日」
テラスに出た修は振り向いて玲奈を呼んだ。
オレンジ色のサンセットとバリ島の海をバックにした修は、一段と輝いて見えた。
(アイドルのオーラ、すごい…)
玲奈は思わずその場に立ちすくむ。
「ヤバいでしょ」
夕日に照らされる修の笑顔。
「ほんと、綺麗…」
玲奈は何故だか、この景色はずっと覚えてるだろうな、と思った。
「夕日が沈む瞬間まで見てようよ」
修の提案に、二人はパティオソファに並んで座った。
しばらく無言で夕日を見つめる。
日本での慌ただしい日常も、モヤモヤした気持ちも心配事も、沈む夕日が洗い流してくれるように感じた。
辺りが薄暗くなり、水平線にうっすらと光が見えるだけとなった。
二人は同時にお互いを見る。
玲奈の目にはうっすら涙が浮かんでいた。
「え?泣いてる?」
修は玲奈の顔を覗き込んだ。
修の整った顔が近くて、玲奈はドキリとした。
「ごめん。あまりに綺麗で、感動した」
玲奈が慌てて目を逸らすと、修も近すぎることに気づいて海の方を向く。
その瞬間二人の手が触れた。
お互いを見つめ合う。
玲奈は自分の鼓動が早くなるのが分かった。
部屋のブザーが鳴った。
二人は我に返る。
もう一度鳴った。
「誰だろ?土居さんかな?」
修は立ち上がって部屋に入り、ドアを開けた。
「イエーイ、プールで遊ぼうぜ」
そう言ってテンション高く入ってきたのはタクミだった。
手にはスワン型の浮き輪を持っている。
「はあ?なんで俺らの部屋のプールなんだよ」
修は浮き輪を怪訝そうに見る。
「みんな彼女さんと遊べるけど、俺だけ一人なんだよ。寂しすぎるじゃん」
タクミは部屋の中をずんずん進み、テラスに出てきた。
玲奈に向って「ども」と手を上げる。
そして、玲奈の隣に座り、こう言った。
「玲奈さんは俺のプロ彼女でもあるんだから、三人で遊んだっていいだろ」
玲奈はきょとんとした顔で修を見る。
修は小さくため息をついた。
「玲奈さんもおいでよ。せっかく浮き輪借りてきたんだから」
タクミはスワンに乗って浮きながら、パティオソファに大人しく座っている玲奈に声をかける。
「玲奈さん、タクミに無理に合わせなくていいよ」
修はプールサイドのサマーベッドに横たわったままだ。
「お前はまたそうやって、玲奈さんを独り占めしようとする」
タクミの言葉に修は慌てて立ち上がったが、「別にそういう意味じゃ…」と口調は小さくなる。
そんな修にタクミが手ですくった水をかけた。
「はい、修も濡れたー」
「俺、海パン履いてないんだけど」
思いのほか水がかかったようで、修は全身びしょ濡れだ。
「だから、お前も着替えて来いよ」
タクミは小さな水鉄砲でまた水をかけた。どうやら隠し持っていたらしい。
「水鉄砲まで持ってたのかよ。……着替えてくる…」
修はタオルで体を拭きながら部屋に入っていった。
「…修、部屋に帰っちゃったのかな…」
玲奈は部屋の方を見ながら心配そうな顔をする。
「まあ、気が向いたら来るんじゃないかな。それより、これで対決しようよ」
タクミはニヤリとしながら、二つ目の水鉄砲を玲奈に渡した。
「は?」
海パンに着替えた修は、お互いずぶ濡れになったタクミと玲奈を交互に見た。
プールサイドもびしょびしょだ。
「修が来たよ、玲奈さん」
タクミの合図に、修に向って二つの水鉄砲から一斉に水がかけられる。
「おわっ」
修はプールに飛び込み、スワン浮き輪を楯にして水を避けた。
「二人とも飛び道具はズルいって」
修はスワンを楯に水鉄砲攻撃を避けるのに必死だ。
しかも玲奈が持っている水鉄砲にはタンクが付いていて、連射が可能だ。
タクミも玲奈もプールに入り、徐々に修を追い込んでいく。
「玲奈さん、それ、貸して」
泳いで近づいてきた修が、あっという間に玲奈の水鉄砲を奪い取った。
修は玲奈の前にスワンで楯を作り、横にピッタリくっついてくる。
「俺が攻撃するから、玲奈さんは防御ね」
玲奈は思わず吹き出す。
こんな子供のように楽し気な表情の修を見るのは初めてだった。
素の二十二歳の男の子だった。
タクミは「勝手にチーム作るなよ」と言いながら、素手と水鉄砲の両方で水をかけてくる。
タクミの素手からの水がスワンの楯を飛び越え、玲奈と修は二人で頭からずぶ濡れになった。
「あはは」
玲奈は修を見て大声で笑い、修も玲奈を見て笑った。
「はー、あっという間だったねぇ」
瑠加は隣の席で小さくあくびをした。
プロ彼女(本彼女)達は二泊三日のバリ島滞在を終え、飛行機に乗り込んだ。
Grand-Blueメンバーとスタッフは夜の便で帰ることになっている。
「瑠加ちゃん、マナティとゆっくり過ごせた?」
瑠加は「まあね」と言って「玲奈さんこそ」と、玲奈の顔を覗き込んだ。
「部屋のプールではしゃいでた声、聞こえてたよ」
「マジで?」
タクミと三人で水鉄砲遊びをしていた時だ。
次の日の夜もタクミは部屋にやってきて、ルームサービスを注文して食べ、ゲームをしているうちに三人とも寝落ちしてしまい、気づくと朝になっていた。
「修とのラブラブはタクミくんに邪魔されたわけだ。なんか、アオハルしてるねー」
「アオハルって」
玲奈は反論しかけたものの、プールで遊んだこともゲームしたことも、学生時代に戻ったような久しぶりの感覚で楽しかった。
何より修とタクミが心の底から楽しんでるように見えた。
「十代の頃の二人はこんな感じだったのかなって、想像してた」
修の色々な表情を見ることもできた。
「はぁ、楽しかった」
玲奈はそう言って隣を見ると、瑠加の視線は飛行機の窓の外の青い海に向いていた。
辺りはオレンジ色に照らされていて、夕日が海に沈もうとしていた。
(修が帰ってきた)
玲奈は目をこすりながら慌てて部屋のドアを開ける。
「ハハ、寝てたでしょ」
Tシャツと短パンのラフな姿の修が笑顔で立っていた。
「ごめん、ウトウトしちゃって」
玲奈はハッと気づいて髪を整えた。幸い絶望的に乱れた感じにはなっていない。
修は荷物を置くとキッチンに向かい、冷蔵庫からペットボトルの水を取り出した。
「玲奈さんも飲む?」
「え?…うん、ありがとう」
修は玲奈にペットボトルを手渡すと、「二日ぶり」と言ってまた笑顔になった。
(ちょっと…何?…機嫌良すぎない?)
いつもの修は疲れ切った顔で帰ってきて、リンに出迎えられると脱力する、というパターンだ。
MVの撮影はそれほどハードではなかったのだろうか? それとも、現場が楽しかったのか?
「玲奈さん、こっち来て。夕日」
テラスに出た修は振り向いて玲奈を呼んだ。
オレンジ色のサンセットとバリ島の海をバックにした修は、一段と輝いて見えた。
(アイドルのオーラ、すごい…)
玲奈は思わずその場に立ちすくむ。
「ヤバいでしょ」
夕日に照らされる修の笑顔。
「ほんと、綺麗…」
玲奈は何故だか、この景色はずっと覚えてるだろうな、と思った。
「夕日が沈む瞬間まで見てようよ」
修の提案に、二人はパティオソファに並んで座った。
しばらく無言で夕日を見つめる。
日本での慌ただしい日常も、モヤモヤした気持ちも心配事も、沈む夕日が洗い流してくれるように感じた。
辺りが薄暗くなり、水平線にうっすらと光が見えるだけとなった。
二人は同時にお互いを見る。
玲奈の目にはうっすら涙が浮かんでいた。
「え?泣いてる?」
修は玲奈の顔を覗き込んだ。
修の整った顔が近くて、玲奈はドキリとした。
「ごめん。あまりに綺麗で、感動した」
玲奈が慌てて目を逸らすと、修も近すぎることに気づいて海の方を向く。
その瞬間二人の手が触れた。
お互いを見つめ合う。
玲奈は自分の鼓動が早くなるのが分かった。
部屋のブザーが鳴った。
二人は我に返る。
もう一度鳴った。
「誰だろ?土居さんかな?」
修は立ち上がって部屋に入り、ドアを開けた。
「イエーイ、プールで遊ぼうぜ」
そう言ってテンション高く入ってきたのはタクミだった。
手にはスワン型の浮き輪を持っている。
「はあ?なんで俺らの部屋のプールなんだよ」
修は浮き輪を怪訝そうに見る。
「みんな彼女さんと遊べるけど、俺だけ一人なんだよ。寂しすぎるじゃん」
タクミは部屋の中をずんずん進み、テラスに出てきた。
玲奈に向って「ども」と手を上げる。
そして、玲奈の隣に座り、こう言った。
「玲奈さんは俺のプロ彼女でもあるんだから、三人で遊んだっていいだろ」
玲奈はきょとんとした顔で修を見る。
修は小さくため息をついた。
「玲奈さんもおいでよ。せっかく浮き輪借りてきたんだから」
タクミはスワンに乗って浮きながら、パティオソファに大人しく座っている玲奈に声をかける。
「玲奈さん、タクミに無理に合わせなくていいよ」
修はプールサイドのサマーベッドに横たわったままだ。
「お前はまたそうやって、玲奈さんを独り占めしようとする」
タクミの言葉に修は慌てて立ち上がったが、「別にそういう意味じゃ…」と口調は小さくなる。
そんな修にタクミが手ですくった水をかけた。
「はい、修も濡れたー」
「俺、海パン履いてないんだけど」
思いのほか水がかかったようで、修は全身びしょ濡れだ。
「だから、お前も着替えて来いよ」
タクミは小さな水鉄砲でまた水をかけた。どうやら隠し持っていたらしい。
「水鉄砲まで持ってたのかよ。……着替えてくる…」
修はタオルで体を拭きながら部屋に入っていった。
「…修、部屋に帰っちゃったのかな…」
玲奈は部屋の方を見ながら心配そうな顔をする。
「まあ、気が向いたら来るんじゃないかな。それより、これで対決しようよ」
タクミはニヤリとしながら、二つ目の水鉄砲を玲奈に渡した。
「は?」
海パンに着替えた修は、お互いずぶ濡れになったタクミと玲奈を交互に見た。
プールサイドもびしょびしょだ。
「修が来たよ、玲奈さん」
タクミの合図に、修に向って二つの水鉄砲から一斉に水がかけられる。
「おわっ」
修はプールに飛び込み、スワン浮き輪を楯にして水を避けた。
「二人とも飛び道具はズルいって」
修はスワンを楯に水鉄砲攻撃を避けるのに必死だ。
しかも玲奈が持っている水鉄砲にはタンクが付いていて、連射が可能だ。
タクミも玲奈もプールに入り、徐々に修を追い込んでいく。
「玲奈さん、それ、貸して」
泳いで近づいてきた修が、あっという間に玲奈の水鉄砲を奪い取った。
修は玲奈の前にスワンで楯を作り、横にピッタリくっついてくる。
「俺が攻撃するから、玲奈さんは防御ね」
玲奈は思わず吹き出す。
こんな子供のように楽し気な表情の修を見るのは初めてだった。
素の二十二歳の男の子だった。
タクミは「勝手にチーム作るなよ」と言いながら、素手と水鉄砲の両方で水をかけてくる。
タクミの素手からの水がスワンの楯を飛び越え、玲奈と修は二人で頭からずぶ濡れになった。
「あはは」
玲奈は修を見て大声で笑い、修も玲奈を見て笑った。
「はー、あっという間だったねぇ」
瑠加は隣の席で小さくあくびをした。
プロ彼女(本彼女)達は二泊三日のバリ島滞在を終え、飛行機に乗り込んだ。
Grand-Blueメンバーとスタッフは夜の便で帰ることになっている。
「瑠加ちゃん、マナティとゆっくり過ごせた?」
瑠加は「まあね」と言って「玲奈さんこそ」と、玲奈の顔を覗き込んだ。
「部屋のプールではしゃいでた声、聞こえてたよ」
「マジで?」
タクミと三人で水鉄砲遊びをしていた時だ。
次の日の夜もタクミは部屋にやってきて、ルームサービスを注文して食べ、ゲームをしているうちに三人とも寝落ちしてしまい、気づくと朝になっていた。
「修とのラブラブはタクミくんに邪魔されたわけだ。なんか、アオハルしてるねー」
「アオハルって」
玲奈は反論しかけたものの、プールで遊んだこともゲームしたことも、学生時代に戻ったような久しぶりの感覚で楽しかった。
何より修とタクミが心の底から楽しんでるように見えた。
「十代の頃の二人はこんな感じだったのかなって、想像してた」
修の色々な表情を見ることもできた。
「はぁ、楽しかった」
玲奈はそう言って隣を見ると、瑠加の視線は飛行機の窓の外の青い海に向いていた。