静かなる、恋の包囲網
そうして一カ月が過ぎたある日、仕事の手を止めた雄平が心配そうに塔子を見た。

「本当に、いいのか?」
「ええ」

塔子は静かにうなずいた。
その眼には、かすかな迷いが浮かんでいた。

「しばらく、お父さんには会えなくなるんだぞ」
「わかっています」

雄平の勧めもあって、塔子は父に対面した。
その場には雄平も同席していた。
十数年ぶりの親子の対面というような感動的な場面にはならなかったが、お互い冷静に話をすることができ、父の事情も理解した。
そしてその父が、今日警察に出頭する。
実の父親が逮捕されることは決して望む結果ではないが、罪を犯した以上自らで責任を取るべきだと塔子には思え、その決意を揺らがせないためにも父には会わないと心に決めた。

「お父さんに会うのが、怖いのか?」
「いいえ」
塔子ははっきりと答えた。

父と対面の場で、塔子は震えが止まらなかった。
震える塔子の手を雄平はそっと握ってくれた。
そんな経緯もあって、雄平は塔子が父を恐れていると思っているようだが、塔子の感じている恐怖は、父に対するものではない。
どちらかというと、父に刃を向けてしまった自分に恐怖を感じていたのかもしれない。
< 179 / 181 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop