Toxic・Romance
片桐馨は手加減を覚えた
なんで、あんな約束したんだろう……!
デスクで頭を抱え、キーボードの上に額が落ちそうになるのを必死で堪えていた。目を閉じれば、昨日の喫煙所の、あの張り詰めた空気が蘇る。
耳たぶをかすめた吐息。指先の冷たさ。
──身体で、の三文字が、呪いのように脳内にこびりついて離れない。
「月島、どうしたの?」
隣の席から夜永さんが身を乗り出してくる。その声に、びくっと肩が跳ねた。
「え、あ、いえ……ちょっと、寝不足で……」
咄嗟に口にした言い訳は、自分でも苦しいと思うほど嘘にまみれていた。
「ほんと? 顔、真っ青だけど。無理してない?」
「だ、大丈夫です。すぐ戻ります」
「戻るものなの?」
「はい。無理そうな時はまた相談させてください」
「うん、分かった」
慌てて視線をモニターに戻す。自覚していなかったけれど、心配されるほど顔に出ていたのか。無理もない、昨夜は仕事半分、夜遅くまで「萌生ゆる」として、彼をモデルにしたクズ美男子の物語を書き殴っていたのだから。
ほっぺをむにむにと摘んで平静を装っていると、視界の端で社内チャットの通知が控えめに点灯した。 差出人は、この半年間、対峙しすぎて見慣れた名前。
「(きた……)」
心臓が嫌な音を立てる。開いた画面には、いつも通りの、血も涙もない「業務連絡」が並んでいた。