【連載版】愛されない当て馬妻に転生したので、読者として推しの物語を堪能することにした。
「ひっさびさにキツかったぁぁあー」

「しばらく甘い物はいいな」

 苦めの飲み物で口直ししつつなんとか完食した二人はカフェを後にし、街をぶらつく。

「今更ですが、馬車を断っても良かったのですか? あと護衛の方も帰してしまって」

 いくらクラヴィルが現役の騎士とはいえ、爵位は公爵。本来なら丁重に護られる側の人間だと思うのだけど、というステイシーの疑問は、

「逆に聞くが、この状態で馬車の揺れに耐えられるか?」

 というクラヴィルの問いかけで一蹴された。

「……無理です。すみません」

 正直やらかした感半端ない。

「護衛にしてもステイシー一人護れない程度の腕なら、俺は退任を願い出る」

 必要ない、と言われステイシーは栗色の瞳を瞬かせる。

「でも、今日は剣をお持ちではないですよね?」

 確かにこの国で一番強いのは間違いなくクラヴィルだ。だが、クラヴィルは市民を無駄に威圧しないようにと仕事以外では帯刀しない。代わりに目立たない護衛を配置しているのだと思っていたけれど。

「ないならないでやりようはいくらでもある。武器だけに頼るのは未熟者のすることだ……って、なんだ?」

「いえ、普段クズくてポンコツな旦那さまがあまりにマトモなので、見惚れてました」

「……。ステイシー、最後に称賛しておけばなんでも許されると思ってないか?」

 ジトっとコチラを睨んでくる濃紺の瞳に、耐えきれないと言った感じでクスクス笑い出しすステイシー。
 なお訝しげな視線を受けて、

「いえ、すっごく贅沢だなって。今更ながら思ってしまって」

 堪えきれず、ステイシーは肩を震わせて楽しそうに笑う。

「贅沢?」

 さして高い物など買い与えていないし、先程のカフェの会計もクラヴィルからすれば驚くほど安かった。
 疑問符だらけのクラヴィルに、

「ほら、誰もが振り返る美丈夫を連れて街を歩けるなんて経験、きっとこれから先ありませんよ? しかもこの国で一番強い騎士さまに護衛してもらえるVIP待遇! それに……」

 本当に最後までクラヴィルが付き合ってくれるとは思わなかったと、眉間に皺を寄せながら可愛らしいお菓子を黙々と消費していくクラヴィルを思い出しステイシーは暖かな気持ちになる。

「それに?」

「ふふ、やはり素直な所が旦那さまの美点だなって。ギャップ萌えも良き良きでした」

 満足です、と言ったステイシーは、

「腹ごなしにお散歩でもいかがです? 旦那さまには少々物足りないかもしれませんが」

 とっておきをご紹介します、と告げて軽い足取りで駆け出した。

 随分な距離を歩いてステイシーに連れて行かれたのは、王都で賑わっているお店でも、デートスポットとして名を馳せている場所でもなく、むしろ随分と外れた場所にある静かな高台だった。

「ここって」

「魔術研究学院の裏手の山ですね。大規模実験の時や練習場としても解放されてますが、本日はお休みですし、元々こっちはあんまり人気なくて」

 設備が整ってる実験棟の方が人気なんです、とステイシーは解説する。

「知ってる人は少ないんですけど、昔ここの卒業生が実験中にやらかしちゃったらしくって。実は正門から入らなくても学院内に入れちゃうんです。っていっても本館から遠くて不便なので使う人はほとんどいませんが」

 穴場なんです、とステイシーはドヤ顔で語るけれど。

「魔術学院のセキュリティー大丈夫か、それ?」

 魔術師は自由人が多いとはいえ、自由過ぎる。魔術学院は研究施設を兼ねた国の上級機関だ。まだ表に出せない機密事項だってあるだろう、というクラヴィルの懸念は、

「大丈夫ですよ。本館には本人登録されたキーカード持ってないと辿り着けませんから」

 ステイシーによってあっという間には払拭された。

「んじゃ、とりあえず"アレ"登りましょうか?」

 ステイシーがアレ、と指したのは何段あるのか数えるのも嫌になるくらい高い展望台。
 腹ごなしのお散歩と呼ぶには少々ヘビーなそれの入り口に立ったステイシーは、

「旦那さま、ハンデ入ります?」

 岩とか背負いたかったらあちらですとにこやかに勧める。

「ステイシー。別に俺は筋トレを趣味とはしていない。仕事だから鍛えているだけで」

 要らない、とステイシーの勧めを一蹴したクラヴィルは、

「ステイシーこそ、根を上げても知らんぞ」

 軽い足取りで階段を登り出した。
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