【連載版】愛されない当て馬妻に転生したので、読者として推しの物語を堪能することにした。
 王都の女の子達に人気のカフェ『星屑シュガー壱番館』
 いつもならたくさんの女の子達で溢れるその店のドアの前には"本日貸切"の看板がかけてあった。
 そしてそんな店内で仁王立ちし、ステイシーをにらみつけているのがこの店の主人アイリー・ラガベル。物語のヒロイン役を放棄した転生者である。

「はぅわぁぁーー。アイリー様、本日も大変お可愛らしく。まるで某童話でお茶会するヒロインのようなお衣装! 頭のリボンカチューシャとニーハイボーダーソックスが分かってるしかないっ。えっ、うさみみ足してもいいですか!? それとも帽子の方がお好みですか?」

 めちゃくちゃ好み! と食い気味に褒めるステイシーの早口を綺麗に聞き流したアイリーは、

「……何であなたは当たり前のようにウチに来るのよ」

 お互い関わらずに生きていきましょうって言ったわよね!? とため息をつく。

「ご主張は分かりました、とはお伝えしましたが、了承した覚えはございませんので」

 権力と財力で店を貸し切りました! とじゃんっと効果音付きでアイリーの前に白い封筒を差し出す。
 そこには王女殿下の印章が押されており、王室御用達を掲げる許可が承認されていた。
 それを手にしたアイリーが、

「アデル!」

 ここに通してくれた彼女の名を呼べば、

「申し訳ございません。相場の10倍でしたので」

 しれっと悪びれることなく答えた。

「だからって、勝手に」

「『星屑シュガー弐番館』のオープン資金も必要ですし、王室御用達の看板は絶対プラスです。それに奥様を訪ねて来てくださる方は貴重ですよ? 社交に力を入れろとは言いませんが、オーナーとしてもう少し交流なさったほうがよろしいかと」

 権力者大事! とアデルは力説し、

「準備は整えておきましたので、ごゆるりと」

 綺麗な礼をして退散していった。
 バックヤードに通じるドアが閉じると同時に、ナチがパチンと親指を鳴らす。
 瞬間、窓の外が暗くなり部屋自体が隔絶されたように世界から切り離される。

「な、何をするのよ」

 警戒心をにじませて、ピンク色の瞳でにらみつけてくるアイリーに、

「こっちの方が手っ取り早いでしょ」

 大した事じゃない、とナチはにこやかに笑う。

「断絶魔法ですね。随分大掛かりな」

 通常、話が漏れないようにするなら、空間に防音魔法張るのが一般的。だが、ナチは外部と一切接触できないようにしてしまったようだ。
 外からこっそり会話を聞くどころか、仮に盗聴器がしかけてあったとしてもそれは拾った音を外部に出すことができず、この部屋での出来事を感知することは不可能。
 それをたった一瞬で構築してしまうだなんて、相変わらず桁違いな魔術師だと思っていると。

「あの子、ルゥくんの実家で見たことあるからねぇ」

 念のためね、といったナチは手近な椅子に腰掛ける。

「と、いうと侯爵家の?」

「あそこの家、普通のメイドですら暗殺部隊もしくは諜報員レベルで鍛えられてるんだよねぇ。わざわざルゥくんが引き抜いて連れてくるくらいだからその中でもあの子は超優秀な子のはず。今、1個でも外部に余計な情報漏れちゃうと僕が陛下に怒られちゃうでしょう?」

 陛下怒ると怖いんだよ? と指で目を吊り上げて怒った顔をしてみせるナチ。
 ふむ、と頷いたステイシーは、

「つまりこれは"シゴデキ夫からの溺愛"ということですね」

 キリッとした顔でそう言った。

「さすがルシオン様。優秀な人材をさりげなく周りに配置することで本人の安全を確保しつつ、自由にやりたいことをできる環境整えるだなんて、まさにスパタリ属性!! 愛しているからこそ、やりたいことに全力投球する彼女を支援して推し、その活躍を愛で倒したいっ!! その心意気、分かりみ深すぎます!!」

 ぐっと、拳を握って熱く語ったステイシーに、

「あー。つまり、ラガベル卿はステイシーと同種なのね」

 ステイシーもスパダリ属性だし、とティアリスは慣れた様子でステイシーの長台詞を要約する。

「そんな。私がスパダリだなんて烏滸がましい。財力全然足りませんし」

「利益度外視の貢ぎ具合でいったらタメ張るわよ? 多分」

「まって!? その人女性?」

 どう見ても男性なんだけど!? と炎華の騎士スタイルのティアリスを指して目を何度も瞬かせるアイリーに、

「あ、ご紹介まだでしたね。ティアリスです」

 さらっとその正体を明かす。

「王女殿下!?」

 嘘でしょ!? と驚くアイリーに、

「あ、身分証みる?」

 とティアリスは、王族にしか与えられない銀時計を見せる。
 貧血でも起こしたようにふらっとなったアイリーは、テーブルにバンッと手をついて、

「深淵の魔術師に男装した王女殿下。……情報過多!!」

 もう少し小出しになさい、とステイシーを一喝した。
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