【連載版】愛されない当て馬妻に転生したので、読者として推しの物語を堪能することにした。
2冊目、愛されない当て馬妻と布教活動。
 穏やかな昼下がり、ステイシーは難しい顔で机の上に広がる山積みの手紙を眺めていた。

「ねぇ、グレゴリー。コレ、いっそのこと全部燃やしちゃダメかしら?」

 郵便事故ってことで、と割とガチめに尋ねるステイシー。
 だが。

「奥様、心情はお察しいたしますが、当家の執事としては賛同致しかねます。返信の手配はコチラでいたしますので、参加の可否等につきましては奥様にご判断を頂ければと」

 にこやかに笑う公爵家の有能な執事がそれを許してくれない。
 はぁーっと、深い深いため息をついたステイシーは、

「あー大人しく離れで引きこもりライフを満喫するか、メイドに徹すればよかったぁぁあー」

 そう言って嘆く。
 すると、机に突っ伏すステイシーに甘い香りがする一杯のお茶が音もなく差し出された。ふわり、と心が和むような優しい香りが部屋に広がる。

「カモミールティーになります。本日の奥様には蜂蜜を足されることをお勧めいたします」

 限定品です、と心惹かれる言葉と共に綺麗な黄金色の液体が入った小瓶が渡された。

「グレゴリーが優秀過ぎる」

 よくわかっていらっしゃる、とステイシーは素直に白旗をあげる。

「勿体ないお言葉です」

 さすが公爵家の使用人。シゴデキだとグレゴリーを絶賛したステイシーはお茶に蜂蜜を垂らす。優しい甘みが疲れた頭に沁みる。

「グレゴリーのお茶は最高ね!」

 美味しいお茶を飲みながら、何でこうなったのかしらと回想する。

 夜会後、何故か急にクラヴィルの態度が軟化した。
 具体的には、クラヴィルに夕食に招かれる頻度が格段に増えた。
 本日のメインであるローストビーフに舌鼓を打ちながら、何がどうしてこうなったとステイシーはクラヴィルをチラッと盗み見る。

『ステイシーは俺の恋物語とやらを楽しみたいんだろ。なら一番近くで鑑賞していればいい』

 クラヴィルは、あの日確かにそういった。
 だからあの夜会で、運命の相手であるヒロインに出会ったのだと思っていた。
 だというのに、だ。
 こっちは毎日ドキドキワクワクしながらクラヴィルを観察しているのに!
 早くヒロインを屋敷に連れてくれないかなーとド修羅場ときゅん展開に向けてそわそわしながら準備をしているのに!
 まーったく、何の収穫もないのである。
 正直、モヤる。
 初恋を拗らせたジレジレ展開は嫌いではないが、小説とは違いページを飛ばせないので待ちが長い。
 当て馬妻構ってないでもう少し攻めていけよ、と読者的に思ってしまうのは仕方のないことだろう。
 じっと見過ぎたのか、

「どうした、人の顔をじっとみて」

 手が止まっている、とクラヴィルから声がかかった。
 クラヴィルから溢れるのは相変わらずよく通る聞き惚れそうな低音ボイスだし。
 冷たい印象を与える濃紺の瞳も均一の取れた恐ろしいほど整った(かんばせ)も小説に出てくるヒーローそのままだけど。

「萌が足らない」

 ステイシーはため息と共に不満げにそう呟いた。

「はっ?」

 またステイシーが何か言い出したな、と思ったクラヴィルの予想は正しかったようで。

「旦那さま! 旦那さまは美人3日で飽きる説をご存知ないので!?」

萌が足らない! とステイシーは再度その言葉を口にする。

「この業界、イケメンは常にインフレを起こしてるんですよ! 萌は!? きゅん要素はどこにあるんですか!? 恋物語を楽しませてくださるのではなかったのですか!! 読者は気が短いんです! もう、なんだったら起承転結の転・転・転・転・転・転でもいいくらい、私現在ときめきに飢えております。もう、もう、もうっ!! テンポが悪い物語なんて即ブラバ案件ですわ!!」

 ぐっ、と拳を握りしめ心底苦悶に満ちた顔でそう訴えるステイシー。
 ステイシーの言っている意味は分からない。が、とりあえず責められているのだけは分かった。
 そして、クラヴィルが今までステイシーを観察した結果から弾き出される答えはひとつだけ。

「分かった。要するにステイシーは暇なんだな」

 彼女は娯楽に飢えている。それも、物凄く貪欲に。

「察しの良さは花丸満点ですわ。旦那さま」

 正解です! と満面の笑みで答えたステイシー。

「そうか」

 と、応えたクラヴィルがそんな彼女に与えたのは"萌"でも"きゅん展開"でもなく、何故か女主人としての権限だった。
 その日以降、ステイシーは怒涛のお仕事三昧に見舞われているのである。

 美味しいお茶で心が落ち着いたステイシー。

「私がしたいのは"推し事"なのにぃ」

 おしごと違いっ、と嘆いたところで事態は変わらないけれど。

「ま、いっか。お仕事(こっち)も嫌いじゃないしね」

 さて、残りも捌いてしまいますかと手際よく振り分けを行なっていった。

「あら? これは……」

 水色の封筒に凝った透かしが入った特殊なデザイン。それに押された印章にも見覚えがあった。
 開封し、中を確認すればそこには綺麗な筆跡で結婚の祝いとお茶会へのお誘いが書かれてあった。

「ふふ。相変わらずね、彼女は」

 懐かしい顔を思い浮かべたステイシーは、

「楽しい時間が過ごせそうね」

 とつぶやいて、参加の返事を認めた。
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