『愛をください』─ 叶わぬ想い ─
82 ◇遺品整理


籍が抜けていないので、ふたりは今だ世間から見ると夫婦であった。

夫はそう宣言したあと、勝手知ったる妻の家、2人分のミルクティーを淹れ、   
クッキーを皿に乗せテーブルに置いた。

「今日も由香が元気そうでよかった」

「寂しい……」

「……?」

自分が側にいるのに寂しいと妻が言う。

「美代志くんはどうしているかしら? 早く会いたい」
そう言うと妻の目から涙が零れ落ちる。

そのような妻の姿を、側で切なげに見つめる正義……。


          ◇ ◇ ◇ ◇


「いただきます」そう言うと、クッキーを口に入れた。


『おいしい……』そして私は目の前にある紅茶を飲む。



気付くと夫が座っていた。
『来てたんだ、気付かなかった』


前にもまして、夫の存在が薄れていくような気がする。


 
いつも、夫が持ってきた何かを食べているのだが、彼が帰ったあと痕跡で、気付く。
夫が来ていたことを。



美代志くんが亡くなってから、私の頭はおかしくなっているのかもしれない。

美代志くんが突然自分の目の前からいなくなった時は、胸が張り裂けそうになった。

出会った頃の彼、毎年一緒にした花火、トランプやゲーム、3人で積み上げてきた 
楽しい団欒の時間――――そんなことが一挙に胸に到来してきて……。

自分の身の内にある一部をもぎ取られたような感覚と悲しみを──
ズシンと心の奥深くで感じるのだった。


       ◇ ◇ ◇ ◇その後──



美代志が亡くなってからしばらくして、食欲がないと話していた妻が
栄養失調で入院をし、嘘のようだが、入院先であっけなく亡くなった。


そんなにも彼に会いたかったのか……。

私は妻に会いたかったけれど、自分に興味を示さなくなった冷たい妻には
会いたくなかった。

結婚してから幸せだった頃の、一途に自分に愛を向けていた妻に……
無性に会いたかった。




葬儀を終え――――
遺品整理をしていた時に、大昔の長男が生まれた頃の家計簿を見つけた。

長男の写真が1枚挟まれいるのに気づき、何気にその流れでメモを目にした。

『神様こんな幸せを私にくださりありがとうございます。
優しくて頼りになる素敵な夫と、可愛い息子を授けていただき、私は世界一の果報者です。
ほんとうにありがとうございます』


『すまない――――すまない――――――とても君を苦しめた。うっ、う~。
ごめん―――ごめん―――――ごめんよぉ~』



          ◇ ◇ ◇ ◇


家計簿のメモを読み終えた正義は、妻の自宅に若者と一緒に入っている仏壇に向かい、号泣した。


 ―――― 好きな人から振り向いてもらえない、という10倍返しの経験を
した夫の末路……であった ――――




 ―――――――― メモ ―――――――――

◉悲しみからくる「緩やかな衰弱死」
食欲がなくなり、眠れなくなり、結果的に体力が落ちて入院 → 感染症や肺炎で亡くなる
という展開は実際あるようです。


    







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