君がくれたチャンスを  絶対に逃さない
第一話
 町中にある、大きなポスターが目に飛び込んできた。
「株式会社スペースハート新グループ企画始動!」
 ポップなかわいいイラストと、4人の女の子がかわいらしく描かれた、大きなポスターはパステルカラーでかわいらしく彩られていた。
「うそ」
 呟いてすぐ、走り出した。

 会場のビルを見上げるたびに、心臓がきゅっと縮む。
 ここで落ちたら、私はまた「ただのファン」に戻る。
 それでも、、、。一分一秒でも、同じ世界に立ちたかった。
 たとえ無謀場夢だったとしても、諦めたくなかった。
 手放したくなかった。彼女の世界に踏み込んでみたかった。
 しっかりと決着が付く、その日まで、、、。

 緊張で足が震えている気がする。すべてが遠くで起こっているような気がする。
 何もかもが、自分のいる世界じゃないみたいだ。
「はい、次の方どうぞー」
 ああ、私本当に来たんだ。
「あのー!次の方!どうぞ!」
 女性スタッフの大きな声で、意識がはっとする。
「あ!えっと、、、、、山崎ことはです!15歳です!あの、えっと、、、、、、憧れの先輩はReinaちゃんです!みんなを笑顔にできる仕事がしたくてここに来ました!よっよろしくお願いします!」
 今、私・山崎ことはは、憧れのReinaちゃんの所属している、2.5次元アイドルグループ(歌い手)株式会社スペースハートの面接に来ています。
 一分一秒でも一緒に仕事をしたい、渡欧墓すると、第一次審査の書類面接に受かっちゃったの。
 緊張して、しどろもどろになってしまったけれど、うまく言えたと思う。
 数秒の沈黙が流れる。さらさらと鉛筆を走らせる音だけが会場に響く。
 たくさんの審査員の人たちの鋭い視線が背中に突き刺さる。ドキドキして今にでも倒れてしまいそうだ。
 受からないと思う。でも、決着を付けるためにここに来た。
(ここで諦めるわけにはいかない)
 めがねを掛けたおじさんが、ふとこちらを見てくる。遠くて、顔はよく見えないし、何を考えているかも分からない。でも、真剣にこちらの様子をうかがっていることだけはよく分かった。

 大きく鳴り響く鼓動がうるさくて仕方がない。
(簡単には諦めないんだから。)
 ぐっと歯を食いしばって、こちらを見る審査員の人たちを見つめ返した。
 めがねを掛けたおじさんが、ふと口を開いた。
「、、、15歳か、、、ちょっと若いがまぁ良い。声はよく通るし響く。」
 「ですが、、、」「中学生で、、、」いろいろな言葉が飛び交う。
「いいんだ。おまえもさっさと行け。」
 めがねを掛けたおじさんにそう告げられ、ほっとしながらも、暴れたまま落ち着かない鼓動を抑え込んでいた。
「あっありがとうございます。」
 私は、舞台裏に行くと、どっと疲れを感じた。
(やっぱ緊張してたんだな、、、)
 長い廊下を歩く。ただただ、黙々と。
 エレベーターが見えてきて、地上行きに乗ろうとしたその時。
「、、、、、、、さん!山崎さん!」
 足音が聞こえて、女性スタッフが私の方まで走ってくる。焦ってこちらに来たようで、息切れている。
「な、何ですか?やっぱり不合格とか、、、」
 自分でも落ち込んでいることが分かる。
「いっいえ!そうじゃなくて、第三次審査の説明があるので、三回にある楽屋で待っていてください。これ、鍵です。」
 302と書かれた銀色に光る鍵を渡された。
「わぁ、、、。ありがとうございます!」
 すごい、すごい!私、本当に合格したんだ!
 うれしさと同時に、実感がわかなくて、体が宙に浮いているみたい。うまく力が入らなくて、誰かが話している気がしたけれど、声が遠くて聞こえなかった。

 控え室は、少し狭めで、お風呂が3つ入るくらいの大きさだった。でも、居心地は悪くなくて小さなソファーとテレビ、それから簡易式冷蔵庫が棚にあった。
 私が荷物を置いて一呼吸すると、誰かが廊下を歩く音がした。
「はよござまーす!きょーってゲームの生配信でしたよね?今日の6時から飲み会があるんだけど、、、あれ?君、誰?」
男の人が部屋に入ってくるなり、流れるようにしゃべり出した。
「、、、ちゃん。Reinaちゃん。」
 無意識に声が出ていた。私が一日24時間聞いている声。聴きなじみがあって、とても落ち着く声。
「は!?」
 男の人は、目を丸くして固まった。
「あ、えっと、すみません。そんなわけないですよね、、、あはは、、、」
 私は、苦笑いをしながら手を振ってごまかす。冷や汗が流れて、冷たい空気の居心地が悪い。
「、、、」
 数秒の沈黙が流れる。
(気まずい、、、)
 会話を切り出そうと、口を開いたとき、男の人がしゃべり出した。
「ばれたし。俺のせいじゃないし。言って良いよね?うんそう。俺がReinaだよ。あーでも、男。いや別に女って言ってないし??あっちが勝手に勘違いしてるだけだし?」
 相手の男の人、Reinaちゃんは、あっさりと正体を認めた。
 うそ、、、。目の前に神がいる。画面越しでも、イヤホン越しでもない。同じ空気を吸っている。それだけで現実味がなくなる。舞い上がって、何を言っていたかは覚えていない。
 ふっと意識が途絶えて、重いまぶたがゆっくりと閉じてゆく。
「ちょっと、ダイジョブ?、、、あ、俺のせい?」

 その時はまだ知らなかった。
 この楽屋での出会いが、私の毎日を、未来を、そして「夢」そのものの意味を変えていくことを。
 ただ、胸の奥が少しだけ熱くなっていた。+---





「ん...」
 視界が開けてくる。そこは、真っ白で大きな天井が広がっていた。
 ぴかりと光る電気が、まぶしく思える。少し目が痛くなるくらいで、残像が残る。
 頭にはふかふかのクッション。ほどよい柔らかさのクッションとさわり心地の良いカバー。まるで体が浮いていると錯覚するような柔らかなベッド。
 ...と、男3人。
 除いてくる男の人たちは、私が目を開けたのを確認すると微笑んだ。
「あ!れいく~ん!この子、起きたよ?」
「ほんとだ」
「わぉ。美人」
「やめなさい」
 ペラペラとしゃべり出す男の人たち。
「あー。起きた。俺、俺。楽屋で倒れてたから、寝かしといた。」
 流れるように話す男の人は、Reinaちゃんだと思う。そうか...私、楽屋で倒れて...。
「あ、ありがとうございます。あの、ここって...?」
 先ほどまでいた楽屋とは比べものにならないくらい、豪華で広い。片付いてるし、男4人が入っても暑苦しくないし、私が寝ているベッドもふかふかだ。
「あ、ここ、俺の部屋。というより...家?」
「そうなるね。」
 家か。...ん?家?男n((推しの?
「あ、会社の寮だ。安心しろ。」
 そういうことじゃないと思うんだけどね!?
「じゃぁ、とりあえず自己紹介しよっか?」
「あ、そうだな。」
 自己紹介か。確かに、私も名前も教えてないよね...。
「じゃあ私から!山崎(やまざき)ことはです!スペースハートさんが大好きです。あ、あと、多分ですけどMiriさん、Saikaさん。それからRisaさんですよね?」
 ...どうせReinaちゃんみたいに、性別詐欺をしt...あれ?なんかみんなぽかんとしている気がする。
「...す、すいません。間違っちゃいましたか?」
 私が謝ると、みんな首を横に振った。数秒の沈黙。...気まずい。
「すげ。」
「なんで分かったの?」
「俺ばれない自信あったのに。」
 なんか、みんな少しがっかりしている気がする。
「えと、すいません」
 なんとなく申し訳なくて、謝った。でもなんか、「当てちゃってすいません」ってあおっているみたいだな、なんて思って、後で後悔した。
「や、別に良いけどさ、俺ら、そーゆーの当てられたことなかったって言うかその...」
「別にイヤじゃないよって謝ってるみたい」
「るせっ」
 声は、どこか聞き慣れた声なのに、会話は、とてもいつも道理とは言えずに、新鮮で、「ふふっ」と笑ってしまった。けれど、びっくりされて謝ったら、後輩なんだからペコペコするなと叱られた。
「あ、ノヴァリスに入るってのはどう?」
 思いついたように言っているけれど、私には聞き慣れた単語ではない。
「の、のう゛ぁりす...?」
 聞いたことのない単語に、私は首をかしげる。
「うん。そうだよ。新しいグループなのっ!」
 ニコニコと言っているが、なかなか頭に内容が入ってこない。
「俺も賛成」
「いいんじゃね」
「かってにどーそ」
 みんなうなずいているが、私はないようについて行けない。
 頭の中がごちゃごちゃで、疑問符が頭の中を走り回る。
「あっあの!何言ってるかよく分からないです。自己紹介もまだだし...。」
 私は、戸惑っているが、少し情報を整理するためにも、自己紹介は大事だと考えた。
「じゃぁ、俺から。木下礼央斗(きのしたれおと)。君の言う通りReinaで、グループで人気一位でっす☆」
 そうなんです~!私の推し、人気なんです~!じゃなくて!
「ねぇ、突っ込んで?気まずいから。あ、次才治な。」
宮本才治(みやもとさいじ)...Saika」
 すごく短く、シンプルな自己紹介。
「ごめんごめん。こいつ無口でさ~。さっきまでは結構口開いてたと思うんだけど。」
 Saikaちゃんって、無口なんだ。動画では、司会進行してるのに。ぴっくり。
「じゃぁ次ぼくだよね?僕は、日々元理咲(ひびもとりさく)。Risaで、あんまり声作ってないんだよね。ほら、僕って女声でしょ?以外とコンプレックスだったりするんだけどね~。」
 ニコニコと笑いながら言う割には、話題にしにくい。
「突っ込みにくい自己紹介すんな。」
 確かに、Risaちゃんと同じ声かも。金髪も似合ってるし、かわいいっ!
「これでおわりだね。」
「澪っ!おまえが自己紹介してないだろ!」
 ぽけーっとしていて、何を考えているか分からないけど、なんとなくすごいな。天才オーラみたいな?
「あぁ、そっか。おれは坂城澪(さかきみお)。。Miriで、うーんと運動が嫌い。」
 確かに...。なんか少しだけ、周りの人と比べて、背も低いし華奢な体つきだ。でも、なんか、何考えているか分かんない。真夏なのに分厚いパーカー来てるし。
「あっありがとうございます!えっと、次、私でいいんですよね?」
「うん。」
「じゃぁ。山崎ことはです。えっと、ことはは平仮名で15歳。中学生で、Reinaちゃん推しです。運動は苦手で、勉強はある程度できます。歌うのは好きです。」
 名前、年齢、苦手なことと得意なこと、好きなこと。ちゃんと自己紹介できたと思う。
「そっか~うちの事務所に向いてるね。」
「どれくらい頭が良いんだ?」
「親はどんな仕事してる?」
「どこ出身?」
 皆さん一気に質問してくる。あはは...。
「えっと、東大の受験のあたりは大体網羅していて、親は、ファストクラーの社長。神奈川県出身です。」
 一つ筒答えたつもりだけど、ちゃんと伝わっているか心配だ。
「ととととととと、とう、東大...ちゅちゅちゅ中学生で...」
「ファストクラー....」
「神奈川ってどこだっけ?」
 みんな何でびっくりしてるんだろう?私、なんか変なことしたかな?
「予想以上の大玉」
「絶対入れるべき。」
 皆さんが、つぶやき始めた。私、なんか変なことしちゃったかな...?
「あの、話がよく見えない...」
 この人たちに私の発言を聞くという選択肢はないらしい。こちらになんて目を向けず。メンバーで話し合っている。
「里愛ちゃんがどう言うか...」
「「「あ」」」
 ...私の言ってること無視されてるよね??ねぇ!?
「あのっ!私、そういう事やるなんて一言も言ってないんですけど!?」
 秦氏は、どうにか止めようとしたが、
「え?オーディション受けたって事は入る気あるんだよね?」
驚いたように、こちらを向いてくる皆さん。
「意見、一応聞いたら?」
「あ、うん。」
「どうだ?いい話だぞ」
「そーだそーだ」
 あれ?これって、了承する前提の話になってない?私、オーディション落ちる気で受けたし。もうっ!何もかもが想定外で、パニックだ。
「えと、あの...その...」
 要約すると、オーディションとは別に作るグル0婦賀あるから、そこに入らないかって言うことだよね?って事は、オーディションもする必要もなくなって、活動もできる。確かに、私にはいい話かもしれないけれど、良いのかも分からないし、ちょっとびっくりだ。
「メンバーの皆さんと会ったりとか、後、親の相談の後で...」
 私が訪ねると、皆さんは、「あぁ」とあいずちを打ち、
「okok!いいよいいよ!今からでも会ってみよ~!」
 今から!?えっと...行動が早いね...ウン。
「はっはぁ」
 私は、日々元さんに手を引かれて部屋を出て、廊下へ向かった。
 少し早足で向かったのは、階段だった。
「ここの階段を上ったらつくよ。」
 薄く透明なガラスの、くるくると回った階段が、目の前にある。
 中心には、きれいな気で作られた、大きな柱があった。美しい丸の形になっていて、ニスが塗ってある。テカテカとしていて、光が当たると虹色にきらめく。私が見惚れていると、
「きれいでしょ?僕のお父さんが作ったの~。特別な塗料で、ニスの上からたくさんの薄い層を重ねているんだ。」
 わぁ...すごい。やっぱりこのビル、おしゃれだな。
「それは分かったが、何で屋上なんだ?この階段を上ったら屋上だぞ。」
 首をかしげる私たちを前に、日々元さんはクスリと笑った。
「いいから!」
 日々元さんは、階段に足を踏み入れる。
「ほら、早く。」
 私たちを手で招く。
 私たちは、顔を見合わせながら、黙々と階段を上る。
 薄いガラスは、意外と頑丈で、みんなで乗っても微動だにしなかった。
 日々元さんの足が止まり、ふと顔を上げると、大きな二重扉があった。
 重そうな扉を、軽々しくあげて、空に向かって
「やっほ~!良いお知らせがあるよ~!」
 と、叫んだ。
かわいい女の子が4人。円を作って弁当を食べていた。全員が一斉にこちらを向いて、
「「「「ほんとですか?」」」」
 と、口をそろえて言った。
「うんっ!連れてきたから、会ってみて。ことはちゃんって言うから。ことはちゃん、自己紹介して。」
 日々元さんに、自己紹介を促され、自己紹介をする。
「あの...えっと、山崎ことはです。中3で、皆さんと仲良くなれるように頑張りたいです!」
 私は、微笑みながら言ったが、ぎこちない笑顔になってしまった気がした。見定めるような鋭い目線が背中に刺さる。背中をつっと冷や汗が伝う。
「は。ちゅ、中3...。皆さん、何を.........あり得ない!あり得ないあり得ない!なんであんた見ないなやつが!仲良くって何だよ!?こっちは遊びでやってるんじゃ...」
 歯を食いしばり、私を乃肩をつかんで、振り返らせる。
「あんたのことは、私たちで話し合う。早く帰って!」
 私は、強制的に、屋上を追い出され、スペースハートの皆さんがついてくる。
「ごめんね~。あの子、少し気が強くて。気にしないでね。」
 日々元さんはそう言ってくれたけれど、私の心にはずっと引っかかったままだった。
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