王女殿下は下級官吏を婚約者に選ぶ
第2話
「ちょっと。何よこれ。アンバーは、いったいどういう基準でこの五人を選んだの?」
「家柄と現在の肩書き、人柄と周囲の評価も考慮に入れております」
「全然ダメ。やり直して」
五人全員が常日頃から顔を合わせている、いわゆる有力貴族の子弟たちだ。
公爵家令息であり従兄弟にもあたるマクニース家のジェードを始め、国内最大の領地を持ち、騎士の称号も持つバーノン侯爵家のカラム。
総務大臣と法務大臣の息子と、軍務大臣の甥っ子までいる。
「この中から一人を選べって? せっかく落ち着いている国政に、無駄な争いを起こすつもりなの?」
この中の誰かと私が婚姻を結んだとたん、薄汚い政権争いの勃発することが目に見えている。
そうでなくても、女王の誕生には反発する勢力が多いのに……。
「しかし、他にセオネードさまのお相手となり得る相応しい相手は、国内にございません。それとも、殿下は国外からお相手を選ぶおつもりで……」
「あ、それはない」
相手は国内の人間から選ぶ。
そして、政情を乱す存在であってはならない。
「そうでなくても、女王の夫となる相手を選ぶのは難しいんだから。そう簡単には決められないのよ。だからまだしばらくは……」
「そうやって、いつまで先延ばしになさるおつもりですか。これ以上遅らせるとなると、殿下の王位継承権の問題にも発展しかねません!」
「あー……」
私がこのまま王位を継ぐためには、結婚が条件に上げられている。
代々の王家は、王位継承の儀と共に最低でも婚約を発表するのが慣例となっていた。
王位を継ごうという者は、文字通り身を固めろということだ。
宮廷内を制し、世継ぎを確保出来る見込みのない人間に、王位は譲れない。
私は王位が欲しい。
父の後を継いで、この国を守りたい。
もっと政治を動かして、人々の暮らしをよくしていきたい。
自分の願う未来を、より良いものにしていきたい。
だけど、そのために結婚したいとは思わないし、したいと思う相手もいない。
自分一人で結婚出来るなら、いくらでもしてあげられるけど、こればっかりは相手のいないことには……。
厄介な問題に頭を抱える私の目に、ふと書類に記された数字が目に入った。
家系図や家柄、現在の地位や経歴が書かれた文書の左上に、不可解な数字が並んでいる。
「ねぇ。この数字って、通し番号か何か?」
婚約者候補として事実上公認されているメンバー五人とはいえ、随分と順番が飛んでいる。
「はい。招待状の送付や宿泊の手配等もございますので、全ての出席者に通し番号がつけられております」
「ねぇ、婚約者を選ぶパーティーには、この五人以外にも男性の出席者はいるんでしょう?」
「もちろんでございます。なにせ次期国王となられるセオネード殿下、二十一歳のお誕生日パーティーなのですよ? 国内外から様々なお客さまをお招きし、それはそれは盛大に……」
「ねぇアンバー。その出席者の中から、独身の男性だけを選びだして」
「は?」
「そうね。年齢は私から上と下で五つくらいまでに絞って。今回のパーティーに出席する資格を持ってるっていうんなら、それなりの身分は保障されてるでしょう?」
「え、えぇ、まぁ……」
「そもそも、誕生パーティーは婚約者選びも兼ねてるって、皆分かってんだし」
「当然です。その目的で開催される、六回目のパーティーなんですから!」
私は有能な秘書官、アンバーの抱えている書類の束に、じっと熱い目を注ぐ。
「ねぇ」
「はい?」
「正直に言って」
「……。なんでしょう」
「アンバーが持ってるソレ、なに?」
彼女は何かを察知したのか、わずかに後ずさる。
「私が……、今回の出席者の中から、抜粋した独身男性の名簿です」
「わーお。さすがアンバー、用意がいいじゃない。やっぱり優秀ね」
私はにっこりと満面の笑みを浮かべて、彼女にその書類を渡せと手を差し出す。
そうなることをじっと待っているのに、彼女は思いっきり眉にしわを寄せとんでもなく嫌な顔をする。
「ちょっと。いいから早くそれを渡して」
「嫌です」
「なんでよ」
「だってなんか、嫌な予感しかしない……」
「なんでよ」
「なんでもです」
「いいから早くして」
アンバーは持っていた紙の束を、渋々と差し出した。
「じゃ、この中から選ぶのであれば、とりあえず問題ないってことで!」
私は渡された婚約者候補の書類の束を、天井に向かって思いっきり放り投げた。
「ちょ、何をなさるのですか!」
「あはは。私の婚約者選びよ!」
数十枚にも及ぶ紙が、ヒラヒラと華麗に宙を舞う。
私は目の前に落ちてきた一枚を、パッと手に取った。
その内容に目をくれることなく、速攻アンバーに手渡す。
「この人が私の婚約者ってことで。準備しといて」
「は?」
「さ、これでこの問題はお終いね。さっさと片付けて、仕事の続きをしなくっちゃ」
私は散らばった残りのプロフィールを押しのけると、ペンを取る。
中断していた仕事の続きに取りかかった。
「本当にこの方でよろしいのですか?」
アンバーは私の選んだ書類を見ながら、眉を寄せている。
「しつこい。私に二言はない」
「……。かしこまりました」
その後、アンバーがこの件に関してどう動いていたのかは知らない。
私は国王代理としての日常に追われ、忙しい日々を過ごしていた。
あれこれと仕事にこなし、今日という日を迎える。
私の誕生会という名の、婚約者お披露目パーティーだ。
「家柄と現在の肩書き、人柄と周囲の評価も考慮に入れております」
「全然ダメ。やり直して」
五人全員が常日頃から顔を合わせている、いわゆる有力貴族の子弟たちだ。
公爵家令息であり従兄弟にもあたるマクニース家のジェードを始め、国内最大の領地を持ち、騎士の称号も持つバーノン侯爵家のカラム。
総務大臣と法務大臣の息子と、軍務大臣の甥っ子までいる。
「この中から一人を選べって? せっかく落ち着いている国政に、無駄な争いを起こすつもりなの?」
この中の誰かと私が婚姻を結んだとたん、薄汚い政権争いの勃発することが目に見えている。
そうでなくても、女王の誕生には反発する勢力が多いのに……。
「しかし、他にセオネードさまのお相手となり得る相応しい相手は、国内にございません。それとも、殿下は国外からお相手を選ぶおつもりで……」
「あ、それはない」
相手は国内の人間から選ぶ。
そして、政情を乱す存在であってはならない。
「そうでなくても、女王の夫となる相手を選ぶのは難しいんだから。そう簡単には決められないのよ。だからまだしばらくは……」
「そうやって、いつまで先延ばしになさるおつもりですか。これ以上遅らせるとなると、殿下の王位継承権の問題にも発展しかねません!」
「あー……」
私がこのまま王位を継ぐためには、結婚が条件に上げられている。
代々の王家は、王位継承の儀と共に最低でも婚約を発表するのが慣例となっていた。
王位を継ごうという者は、文字通り身を固めろということだ。
宮廷内を制し、世継ぎを確保出来る見込みのない人間に、王位は譲れない。
私は王位が欲しい。
父の後を継いで、この国を守りたい。
もっと政治を動かして、人々の暮らしをよくしていきたい。
自分の願う未来を、より良いものにしていきたい。
だけど、そのために結婚したいとは思わないし、したいと思う相手もいない。
自分一人で結婚出来るなら、いくらでもしてあげられるけど、こればっかりは相手のいないことには……。
厄介な問題に頭を抱える私の目に、ふと書類に記された数字が目に入った。
家系図や家柄、現在の地位や経歴が書かれた文書の左上に、不可解な数字が並んでいる。
「ねぇ。この数字って、通し番号か何か?」
婚約者候補として事実上公認されているメンバー五人とはいえ、随分と順番が飛んでいる。
「はい。招待状の送付や宿泊の手配等もございますので、全ての出席者に通し番号がつけられております」
「ねぇ、婚約者を選ぶパーティーには、この五人以外にも男性の出席者はいるんでしょう?」
「もちろんでございます。なにせ次期国王となられるセオネード殿下、二十一歳のお誕生日パーティーなのですよ? 国内外から様々なお客さまをお招きし、それはそれは盛大に……」
「ねぇアンバー。その出席者の中から、独身の男性だけを選びだして」
「は?」
「そうね。年齢は私から上と下で五つくらいまでに絞って。今回のパーティーに出席する資格を持ってるっていうんなら、それなりの身分は保障されてるでしょう?」
「え、えぇ、まぁ……」
「そもそも、誕生パーティーは婚約者選びも兼ねてるって、皆分かってんだし」
「当然です。その目的で開催される、六回目のパーティーなんですから!」
私は有能な秘書官、アンバーの抱えている書類の束に、じっと熱い目を注ぐ。
「ねぇ」
「はい?」
「正直に言って」
「……。なんでしょう」
「アンバーが持ってるソレ、なに?」
彼女は何かを察知したのか、わずかに後ずさる。
「私が……、今回の出席者の中から、抜粋した独身男性の名簿です」
「わーお。さすがアンバー、用意がいいじゃない。やっぱり優秀ね」
私はにっこりと満面の笑みを浮かべて、彼女にその書類を渡せと手を差し出す。
そうなることをじっと待っているのに、彼女は思いっきり眉にしわを寄せとんでもなく嫌な顔をする。
「ちょっと。いいから早くそれを渡して」
「嫌です」
「なんでよ」
「だってなんか、嫌な予感しかしない……」
「なんでよ」
「なんでもです」
「いいから早くして」
アンバーは持っていた紙の束を、渋々と差し出した。
「じゃ、この中から選ぶのであれば、とりあえず問題ないってことで!」
私は渡された婚約者候補の書類の束を、天井に向かって思いっきり放り投げた。
「ちょ、何をなさるのですか!」
「あはは。私の婚約者選びよ!」
数十枚にも及ぶ紙が、ヒラヒラと華麗に宙を舞う。
私は目の前に落ちてきた一枚を、パッと手に取った。
その内容に目をくれることなく、速攻アンバーに手渡す。
「この人が私の婚約者ってことで。準備しといて」
「は?」
「さ、これでこの問題はお終いね。さっさと片付けて、仕事の続きをしなくっちゃ」
私は散らばった残りのプロフィールを押しのけると、ペンを取る。
中断していた仕事の続きに取りかかった。
「本当にこの方でよろしいのですか?」
アンバーは私の選んだ書類を見ながら、眉を寄せている。
「しつこい。私に二言はない」
「……。かしこまりました」
その後、アンバーがこの件に関してどう動いていたのかは知らない。
私は国王代理としての日常に追われ、忙しい日々を過ごしていた。
あれこれと仕事にこなし、今日という日を迎える。
私の誕生会という名の、婚約者お披露目パーティーだ。


