腹黒王子の愛は、激甘でした。

34話 不穏な空気

「へぇ、2人で勉強会?」

ピリついた空気に私が慌てていると、颯汰先輩がフォローしてくれた。

「もうすぐテストが近いから復習してるんだよ」

「ふーん?」

廉先輩は意味ありげに笑うと、

そのまま——

私の隣に、すとんと座った。

「じゃあ俺も混ぜてよ」

「……え?」

あまりにも自然すぎて、一瞬理解が追いつかない。

(え、え、え!?)

気づけば、右隣には廉先輩。

左隣には颯汰先輩。

(なにこの状況!?)

一気に心臓がうるさくなる。

「いいでしょ?どうせ空いてるんだし」

廉先輩はさらっと言う。

その言葉に、私は反射的に颯汰先輩の方を見た。

颯汰先輩は——

「……別にいいけど」

一応そう答えたけど、

ほんの少しだけ眉が寄っている気がした。

(あれ……?)

でもすぐにいつもの表情に戻って、

「集中できるならね」

と、静かに言った。

「大丈夫大丈夫、邪魔しないって」

廉先輩は軽く笑って、机に肘をついた。

その距離が、さっきよりぐっと近い。

(ち、近い近い近い……!)

さっきまででも十分ドキドキしてたのに、

両側から挟まれる形になって、完全にキャパオーバーだ。

「優、さっきどこやってたの?」

廉先輩がひょいっと私のノートを覗き込む。

「え、あ、ここです!」

「んー……ああこれね」

さらっと問題を見て、

「ここはこう考えたら早いよ」

と、すぐに解き方を教えてくれる。

(すごい……分かりやすい……!)

思わず目を輝かせると、

「でしょ?」

と、ちょっと得意げに笑った。

「ありがとうございます!」

素直にお礼を言うと、

廉先輩は一瞬だけ、ほんの少しだけ柔らかい顔をした。

でもすぐに、いつもの調子に戻る。

その様子を、颯汰先輩が静かに見ていた。

「……優」

「はい!」

名前を呼ばれて、びくっとする。

「さっきの続き、やるよ」

「あ、はい!」

颯汰先輩は淡々と問題を指し示す。

その声はいつも通り落ち着いているのに、

どこかほんの少しだけ、低い気がした。

(……気のせい?)

「ほら、ここ間違ってる」

「あ、ほんとだ……!」

「だからさっき言ったでしょ」

少しだけ近づいて説明してくれる颯汰先輩。

その距離にドキッとするのと同時に、

反対側からも視線を感じる。

「……へぇ」

ぽつりと、廉先輩が呟いた。

「会長、教え方うまいじゃん」

軽い口調だけど、その奥に何か含んでいるような気がする。

「普通だよ」

颯汰先輩はさらっと返す。

視線はノートのままなのに、

空気はどこか張り詰めている。

(な、なんか……変な感じ……)

2人ともいつも通りなのに、

どこか違う。

言葉には出てこないけど、

見えない何かがぶつかってるような——

そんな空気。

でも私は、その理由が分からなくて。

ただ、挟まれる形で座りながら、

ドキドキと戸惑いが止まらなかった。

* * *

Side 白流 廉

(……ほんと、分かりやすいな)

心の中でそう呟く。

優は全然気づいてない。

颯汰がどれだけ意識してるかも、

自分がどんな気持ちでここにいるかも。

(俺は……邪魔する気、ないんだけどな)

そう思いながらも、

無意識に優の方へ少しだけ体を寄せてしまう。

(……でも、これくらいはいいよな)

そんな風に自分に言い訳しながら、

廉はいつも通りの笑顔を浮かべた。

 

穏やかなはずの勉強会は、

気づかないうちに、

少しずつバランスを崩し始めていた——。
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