八年執着されましたが、幸せです ~傷心のホテリエですが、イケメン御曹司と契約恋人になりました~
 いきなりこんな事をされたら、誰だって困るだろう。

 けれど俺が真剣に彼女を想っていると伝えるには、ある程度金を使う必要があった。

『ずっと好きでした。俺と付き合ってください』

 俺はまっすぐに彼女を見つめて告白する。

 あとから思えば、突っ込みどころ満載だ。

 ずっと家庭教師と生徒として接し、その間に彼女に好意を寄せている素振りを見せなかった。

 なのにいきなりテーマパークデートを奢り、高級店で花束とハイジュエリーを出して告白だ。

 結婚を意識した大人の女性なら、『喜んで!』と言うだろうが、ろくに恋愛していない女子大生に、高校を卒業したての子供がする行為ではない。

 当時の俺は、その辺りの事をまだ上手く考えられていなかった。

 いや、今でも嬉しくなったら金を使い、物理で喜ばせようとするところは変わっていないかもしれない。

 とにかく、当時の俺は人付き合いが上手くいっていない分、自分を受け入れてくれる芳乃に、すべての愛情を叩きつけていた。

 彼女にとっては青天の霹靂だろうし、突如として重たい愛を向けられて『恐い』と思われても仕方がない。

 しかし〝分かっていない〟俺は、顔を真っ赤にして続けた。

『…………っ、本気、なんだ。俺は芳乃さんが好きだ。結婚したい』

 芳乃は精一杯のやり方で想いを告げる俺を見て、キュッと眉間に皺を寄せた。

 彼女はしばらく沈黙し、出されたデザートにも手をつけず、黙ってペンダントを見ていた。

 やがて彼女はゆっくり深呼吸し、偽らない返事をした。

『私、悠人くんをそういう対象として見てなかった』

 ――だろうな。

 そう言われる事は予想していた。

 でも、まだ希望を持てるなら、食らいつきたかった。

『三年後、五年後も恋愛対象として見られない? 俺は今高校を卒業したばかりだけど、すぐに社会人になる。その時は今ほど歳の差を気にしなくなっていると思うんだ』

 俺は必死に食い下がり、芳乃をその気にさせようとする。

 彼女は少し考えたあと、小さく頷いた。

『確かに、私はまだ君の事を〝生徒〟と思っているし、高校生だから余計に〝年下〟に感じてる。でも悠人くんが二十五歳になった時は、今よりずっと素敵な男性になっていると思う』

 理解を示してもらえ、俺はホッと安堵する。

『……でもね、私は悠人くんが思っているような綺麗な人じゃない。〝家庭教師のお姉さん〟に憧れる気持ちは分かるし、私も生徒さんの前では優しいお姉さんとして振る舞ってる。そうしたほうが上手く関係を構築できて、勉強も教えやすくなるの。……もっと言えば、悠人くんが好きになった〝私〟は、演じられた人格と言っていい。……本当の私を知れば、〝こんなはずじゃなかった〟って思うんじゃないかな』

『絶対にそんな事はない』

 俺はきっぱりと否定する。

 持論として、人はとっさの時に素が出るものだと思っている。

 いい子ぶっている同級生たちも、神楽坂グループに悪い噂が流れた瞬間、俺を避けるようになった。

 けれど芳乃は、家庭教師の仮面を被っていたとしても、炎上している神楽坂グループにとても冷静な判断を下していた。

 俺は彼女の中にあるブレない価値観を垣間見た気がし、『信頼できる』と思ったのだ。

 周りに裏切られ、失望し続けた俺だから、直感的に確信できたと言っていい。

 ――この想いは間違えていない。

 強く想った時、芳乃は予想外の答えを出した。

『……私、いずれ日本を出ようと思っているの』

 そう言われ、俺は静かに瞠目する。

『私は最高のホテリエになりたい。まず日本のホテルで修行して、それから世界を知りたい。そのあとに自分の〝理想〟を探したいの。……だから今は、夢を追いかけるので精一杯で、恋愛や結婚を考えられない』

 芳乃は真剣な表情で言っていて、本心からの言葉だとすぐに分かった。

 半年近く彼女と毎日のように顔を合わせ、僅かな時間に雑談するうちに、その為人をある程度知ったつもりでいる。

 彼女は本当に、夢を叶える事を第一に考えている。

 ――夢に負けたんなら、しょうがないか。

 そう思う傍ら、他に好きな男がいる訳でないなら、まだ望みがあると思っていた。

『じゃあ、いつか芳乃さんが満足いくキャリアを歩んで落ち着いた頃、もう一度告白してもいい?』

 諦めの悪い俺の言葉を聞き、芳乃は呆れたように笑った。
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