婚約者にバカにされ続けた侯爵令嬢が「ざまぁ」するに至るまで
 小一時間ほどルーシーの説教が続いた後、エリオットはぐったりとソファに身を預け、天を仰いでいた。

 ルーシーは時間だと言って帰城し、室内に残されたのはミラジェーンと侍女のみだった。


「はー……まったく、うるさい姉さんだ」


 ミラジェーンは目を泳がせた。

 さすがに自業自得と切って捨てるには、気の毒なほどの憔悴ぶりだった。


「ミラ」

「は、はい」


 やつれた声でエリオットが呼びかけた。


「きみは、あのようにやかましくて図々しく、かわいげのない女になってはいけないよ。淑女は楚々として、夫となる男に付き従うのがあるべき姿なのだから」

「……」

「ミラ?」

「あ……はい。そのように」


 ミラジェーンは困惑しながらも頷いた。

 エリオットはその返事に気を良くしたらしく、ルーシーの悪口や第一王子への労い、さらにはいつか捨てられるといった話まで、延々と連ねていた。


(……でも)


 ミラジェーンは、先日のアッシュとルーシーの様子を思い出していた。

 たしかにルーシーははっきりとものを言い、第一王子相手にも臆せず意見を述べ、忌憚なく指摘をするが、それを受けたアッシュはどちらかといえば嬉しそうだった。

 あんなにも穏やかで優しいまなざしでルーシーを見つめていたアッシュが、厳しい態度を理由にルーシーを見限るとは、ミラジェーンにはとても思えなかった。


 さらにミラジェーンは、帰り際に見かけたエースの姿も思い出した。

 汗と砂埃にまみれながら、師範代相手に何度も立ち向かう第二王子。王子の立場に甘えることなく努力を重ね、ときにミラジェーンにだけは甘えるエース。


 ミラジェーンはソファの隣で、姉への不満を言いつのるエリオットを見る。

 そして何も言わず、コルセットに締め付けられた肺から静かに息を吐き出した。
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