彼女の季節を戻したい

事情を知る彼女


 僕たち――時雨冬青と時雨柊里のお父さんは、この家にいない。
 出張とかではなく、単なる離婚。
 それも原因は父。
 浮気したことによる離婚というよくあることだ……と思う。
 だけど、そのせいで母さんは一人で僕たち二人を育てなくてはならない。
 もちろん、父に非があるため、毎月お金は振り込まれている。
 だから、まだ良いほうだ。
 それに、この町の人は優しい。
 事情を知ってくれているから、おすそ分けなども母さんはよくもらってくる。

 葵に事情を聞いたからこその、恵まれた環境だ。

「離婚した」

 だから、僕は明るく答えた。
 別に悲観する必要はないから。

 父は、母から聞くに今も独り身らしい。
 たまには、どうしているかな、とは思わなくもないけど、父の自業自得だから、その後に行動することはない。
 元気でいてくれたらいいな、とは思うこともある。
 だけど、それ以上に、どうして浮気をしたのか、そのことのほうが気になる。

 母さんが好きだから結婚したんじゃないの?
 その愛も、消えちゃった?
 僕たちのことも、どうでもいい?

 父さんは家からは出ていった。
 だけど、家に、心に、その影響は残っているんだ。

「そっか」
「生きているから、気にすることはないよ」
「うん……」

 僕は他に言うことが思いつかなくて、そう言った。
 とりあえずは葵も頷いてくれたけれど、けれど優しい葵のことだし、きっと気にしてくれているのだろう。

「ねえ、じゃあUNOしようよ!」

 僕たちは、柊里の切り替えに促され、UNOをすることにした。


「今日はありがとう。……事情も、立ち入っちゃってごめんね」
「みんな知っていることだから気にしていないよ」
「そう……」

 そういえば……父さんにあったら……

「名前……」

 について聞いてみたかったな。

「名前?」
「あ、うん。父さんに会ったら聞いてみたいこと。僕の名前、父さんがつけてくれたから」 
「そうなんだ。確かに冬青って響き、不思議だよね」
「でしょ?」
「けれど確かに冬の青ってきれいだと思うよ? イメージだけど……冷たいからこそ深い青になってる感じがする」
「ありがとう。葵も、早乙女という名字にも季節感があったいい名前だと思う。知ってる? 葵の花言葉」
「ちょっとだけ。野心とかそういう感じの前に進めって感じでしょ?」
「うん、それもある。だけど紅葉葵とか薄紅葵は『穏和』│薄紅立葵《うすべにたちあおい》は『恩恵』や『慈善』って意味もあったはず。
 いい意味だと思わない?」
「……かもね」
「ま、柊里からの受け売りだけど」
「柊里ちゃん、山でも詳しかったからね」
「うん」
「……」
「……」
「じゃあまた学校で!」
「うん、また明日!」

 外での立ち話だったので、そこまでにして別れることにした。



< 19 / 20 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop