「寒い」と、夏を連れた彼女は言った
真冬に夏服の彼女
とうとう、冬休みも明け、始業式の日になった。
夏の出で立ちの彼女には、まだ会えていない。その前に、あまり家を出ることがなかった。
「よお、冬青」
教室で、親友の御堂武に出会った。
「久しぶり、武。実家に帰って楽しかった?」
「ああ、雪で遊んで来たからな。まあ雪かきもさせられたんだが」
「そこは行く前から覚悟していたことでしょ。楽しかったからいいじゃん」
「まあな。お前はどうだった?」
「どうも何も……家からあまり出かけていないよ」
家から出たのは……年末の外掃除に、初詣に、ときどきおつかいとお手伝いかぁ。
本当にあまり出かけていないなぁ。
「そうなのか? 天気も良かったのにもったいないなあ」
「僕は武ほど運動は得意じゃないし好きでもないから。知ってるでしょ?」
「当たり前だ。だけど、それでも親友なんだから運動させてやらねえと、と思うわけだよ」
「僕にとっては迷惑だけどね」
「まあ俺も本は勧められたくねえから気持ちは分からんでもないが……まあお前はお手伝いが忙しそうだからな」
「そう、だから問題なし」
少し話がそれたとはいえ、なんだか話が堂々巡りになってきたのを武も感じ取ったのか、話を変えてくれた。
「ところでだ、転校生の話を聞いたか?」
「うーん……それっぽい話なら母さんから聞いたよ?」
「そうなのか? 俺は中二の同級生がやってくるとしか知らねえもんで……」
へえ、転校生って同級生なんだ。
「僕はおつかいに行っていたときに偶然それっぽい人に出会った、というだけかな。そして母さんに聞いたって感じ」
「マジで!?」
「うん。冬なのに袖なしのワンピースで自転車に乗っていた」
「冬に? ヒカルみたいにか?」
ヒカルとは、同じクラスの佐々木ヒカル。
一年間、卒業式や入学式を除いてずっと夏服で押し通している人だ。
「まあそんな感じ。だけど、ヒカルは寒さに耐えているでしょ?」
「うん、そうだな」
「自転車に乗っていたのに寒さを感じているふうには見えなかった」
……それどころか、すれ違ったときに暖かさを……夏を感じた。
「へえ、すごいな。本当にその子が来るのかな?」
「寒さを本当に感じていないのか気になるし、来てほしくはあるよね」
「ほうほう」
突然、武の声が野次馬のようになった。
……これ、絶対恋愛に絡めたいやつじゃん。
「冗談も大概にして。もうすぐ先生が来るよ」
「ほいほーい」
そして、先生がやってきて、転校生が教室に入ってきた。
「あっ」
思わず、声がこぼれてしまった。
早乙女さんにも声が聞こえてしまったらしく、こちらを見て少し驚いた表情になる。
予想はしていたし、期待はしていたことだったけれど、転校生は彼女だったのだ。
そして……夏服だった。
思わずヒカルを見る。
ヒカルは、自分と同じ夏服の少女を見て、目を見開いてい
「始めまして、早乙女葵です。家庭の事情で引っ越してきました。音楽を聞くのが好きです。この町に来たのは初めてで分からないと思うことも多いかもしれませんが、よろしくお願いします」
早乙女葵……これまた夏だ。初夏の爽やかな名前。
早乙女……田植えをする女の人。
葵……初夏から夏に向けて咲く花。
なんとも彼女らしい名字に名前なんだろう。
思わずそこに感心してしまった。
「そういうわけだ。席はあそこの空いている席に座ってくれ。気になることがあったら、何でも聞いてみなさい」
「はい」
「みんなも、ちゃんと答えるように」
「「「「「はい」」」」」