クロとシロと、時々ギン

シロヤギさんからの手紙(2)

「え?」
「だって名前、矢城(やぎ)明日花(あすか)でしょ? 一般的に、あだ名って名前をもじるじゃん。“クロ”要素なくない?」
「白谷先輩。私の名前、知ってたんですか?」
「うん。覚えてるよ。可愛い名前だなぁと思って」

 “社内イチの爽やかイケメン”だと女子社員の間で名高い白谷吟は、その名にふさわしい爽やかな笑顔で恥ずかしげもなく私の名前を褒めてきた。
 これが、爽やかイケメンの手口か! 爽やかイケメンは、こんなにもシレッと「可愛い」を口にできるのか! 爽やかイケメン、恐るべしっ!!
 可愛いなんて言われ慣れていない私の心の中では、白谷吟に対して警戒アラートが鳴り響く。しかしそのアラートを無視するかのように、私は耳まで真っ赤に染め上がっていた。

「か、可愛いだなんてっ!! ……平凡な名前ですよ」
「そお? 僕は、可愛いと思うけどなぁ」

 私の動揺など気にもせず、白谷吟は涼しい顔でさらに「可愛い」を畳みかけてくる。
 私は勢いに任せてグラスをグイッとあおる。そして、酔い覚ましを装って掌でパタパタと顔をあおいだ。

「え~っと。何でしたっけ? あっ、“クロ”って呼ばれてる理由でしたっけ?」
「うん、そうそう。史郎が“クロ”って呼ぶたびに気になってたんだよね」

 爽やかな笑顔で相づちを打つ白谷吟に、私は思わず目を奪われる。
 気になっていたとは!?
 心のアラートは、さらにけたたましく鳴り響く。

「あ~、え~っと……アレ? どうしてだっけ?」

 アラートがうるさすぎるのか、酔いが回りすぎているのか、うまく話せない。イケメンスマイルにドギマギしてしまう。

「ああ、そうだそうだ。私が色黒だからだそうです」
「え? いや、全然そんなことないと思うけど? 誰がそんなこと?」
「あの人ですよ」

 フラフラとした足取りでこちらへ向かってくるシロ先輩に視線を向けた。
 白谷吟もつられてそちらを見やり、仕方のない奴だと言いたげに顔をしかめる。

「まったく……デリカシーの欠けらもない。ごめんね。女の子にそんなこと言うなんて」

 白谷吟は、関係ないのに申し訳なさそうに眉尻を下げた。
 私は慌てて顔の前で両手を振る。

「いや、もう、全然。白谷先輩は何も悪くないですから」
「でも、嫌じゃない? 本当は嫌だったら、僕からあいつに、きつく言っておくよ?」
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