クロとシロと、時々ギン

去り行く背中を追いかける(7)

 私は、自分の胸の中にある想いを伝えたくて、ギュッとシロ先輩の手を握る。
 シロ先輩も、それに答えるように、少しだけ手に力を込めてくれた。

 好きな人と触れ合うだけで、世界は色鮮やかに変わる。
 それは、とても不思議な感覚だった。
 今までと変わらない私たちが良いと言いながらも、私は変わっていくことを望んでいる。
 そんな矛盾がおかしくて、静かに微笑んだときだった。

 不意にシロ先輩のお腹がぐーっと鳴った。
 その音に、私たちは同時に噴き出す。
 先ほどまで漂っていた甘い雰囲気は消え、いつもの時間が流れ始める。

「腹減ったな」

 その一言に、私はまた笑ってしまった。
 ムードなんて全くない。でも、それがシロ先輩らしくて、私もいつも通りの調子を取り戻す。

「何か食べに行きますか? と言っても、この辺には何もないですけど」

 神社の周りにあるのは住宅ばかりだ。シロ先輩は腕を組んで少し考える仕草を見せた後、首を振った。

「いや……。せっかくだけど、今日は帰るわ」

 少し残念に思いながらも、仕方ないかと気持ちを切り替える。
 私たちは並んで歩き始めた。

 境内を出ると、「送るか?」と聞かれた。
 これまで言われたことのない言葉に、私は少し戸惑う。
 それと同時に、なんだか特別感があって、甘酸っぱい気持ちが込み上げる。
 私は笑顔で首を振った。

「大丈夫ですよ。うち近いですから。それに一緒に戻ったら、先輩、また母に捕まりますよ」

 冗談めかして言うと、シロ先輩は苦笑いを浮かべた。

「そっか。そうだな」

 そして、どちらからともなく立ち止まる。神社を出てすぐの交差点に着いたのだ。

「じゃあ、ここで。気をつけて帰れよ」
「はい」

 いつになく優しさの滲む言葉が嬉しい。
 名残惜しさを堪えて返事をした。

 信号が青に変わり、横断歩道を渡り始める。
 交差点を曲がれば、もうシロ先輩の姿が見えなくなってしまう。
 そう思うと、月曜日には職場で会えるというのに、無性に寂しくなった。

 思わず振り返る。シロ先輩はそこに佇んだまま、こちらをじっと見つめていた。
 数秒見つめ合っているうちに、信号が点滅を始める。

 私は慌てて前を向いて駆け出した。
 横断歩道を渡り終え、再度振り返ると、まだシロ先輩はこちらを見ていた。
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