クロとシロと、時々ギン

それって、まさかお見合い!?(6)

「あんたの好きなフィナンシェ。今朝、焼いたの。余ったら明日のおやつにでもすればいいわ」

 母の手作りお菓子。久しぶりだ。
 「ありがとう」と言うと、母は安堵したように頬を緩めた。
 玄関で靴を履き終えると、見送りに来てくれた母に顔を向けた。

「……さっきの話なんだけど」

 母の顔に少しだけ緊張が走ったのが分かった。母の様子をうかがいながら言葉を続ける。

「お父さんも知ってるの?」

 母は一瞬きょとんとした顔をしたが、すぐにいつもの表情に戻った。

「まだよ。ちゃんとあんたに確認しないと、と思ってね。それに、こういうことは当人同士の気持ちが一番大事だと思うから。まぁ、あんたがどうしても嫌なら仕方ないけどね」

 母の言葉に私は少し顔をしかめて見せる。

「……そう。じゃ、話は進めないで。私、そんなつもりないから。それから、お父さんには絶対言わないで。お父さんが知ったら余計に面倒くさいことになると思うから」

 我が家の父は過保護というか心配性なのだ。きっと私のお見合いなんて聞いたら大騒ぎするに違いない。
 相手を気に入れば勝手に話を進めそうだし、気に入らなければ、自分で別の人を見繕ってくる可能性もある。
 それだけは避けたい。
 母もそれを分かっているから、父にはまだ何も言っていないのだろう。母が苦笑いを浮かべた。

「それはそうね。お父さんには言わないでおくわ。でもまぁ、あんたの気が変わったら言いなさいね」

 私は「そんなことはない」と心の中で付け足しながら、母に軽く手を振って家を出た。

 外に出ると雪がちらついていた。灰色の空から白いものが舞い落ちてくる。
 これくらいなら積もらないかと思っていると、スマホが鳴った。由香里からだ。どうやら彼女の用事はあと一時間ほどで終わるらしい。
 メッセージを読み終えると「駅に着いたらまた連絡する」と送り、スマホをポケットに入れる。
 駅までの道のりは徒歩二十分ほど。空から降り注ぐ雪を見ながら、私はゆっくり歩き始めた。

 突然の由香里からの誘い。何かあったのだろうか。仕事でミスでもしたか、それともプライベートでトラブルでもあったか。

 考えながら歩いているうちに、駅前の広場に到着した。時計の針は十二時十五分を指していた。由香里との合流は一時になりそうだ。
 お腹がグゥッと鳴る。
 さて、どこへランチに行こうか。
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