クロとシロと、時々ギン

行ってみっか(3)

 これは私自身の問題で、勝手に抱え込んでいるだけだ。シロ先輩は何も悪くない。むしろ、シロ先輩のおかげでモヤモヤしたストレスから少し抜け出せた。
 私は首を横に振る。

「いえ。シロ先輩のおかげで、自分の中で答えが出たんです。繋がりを断とうが続けようが、どちらにしても私はウジウジ悩むんだと思います」

 どちらを選んでも、自分だけでは決着をつけられなかっただろう。
 だからこそ、シロ先輩の言葉は前に進むきっかけになった。
 改めて感謝を伝えると、シロ先輩はふっと表情を和らげ、視線を逸らす。

 ふいに、シロ先輩の手が私の頭にそっと置かれた。撫でるわけでもなく、ただ触れているだけなのに、体温が伝わってくる気がして温かい。
 不思議だ。どうしてこんなにも安心できるのだろう。どうしてこんなにも心地いいのだろう。

 シロ先輩の横顔をじっと見る。視線に気づいたのか、こちらを向いたシロ先輩と目が合う。いつもより優しい眼差しだった。
 頭をポンと軽く叩くと、私の頭から手を離し、シロ先輩は車窓へと視線をなげる。私たちは、それ以上何も話さなかった。

 会社の前でタクシーが停車する。
 来客が待っているシロ先輩を先に行かせ、私は料金を支払って車を降りた。
 タクシーを見送って社屋に入ると、エントランスホールに見知った姿があった。同期の由香里だ。「あ! 矢城」と、私を見つけるなり駆け寄ってくる。

「おつかれ〜」
「お疲れ。会社で会うの久しぶりじゃない?」

 由香里の言う通りだった。彼女とは、婚活の話を聞いたあの日以来会っていなかった。

「そうだね。同じ会社なのに全然会わないよね」
「うん。なんかタイミング悪いというか……」
「そうなのよねぇ。まぁ、しょうがないけど」

 私の所属する営業部は忙しい部署だ。新プロジェクトも始まり、バタバタしていた。
 由香里の方も決算期と新年度の手続きで繁忙を極めていたらしい。

「もうずっと残業続きだよ。マジでクタクタ。早く結婚決めて仕事辞めたいって思っちゃったもん。まぁ、忙しすぎて今は思うように活動できてないんだけどね」

 由香里の言葉に、私は苦笑いを浮かべた。
< 52 / 147 >

この作品をシェア

pagetop