クロとシロと、時々ギン

行ってみっか(9)

 それから、今度は私とシロ先輩の方へ視線が向けられた。

「八木さんはさっきご挨拶いただきましたけど……あら、あなたも矢城(やぎ)さん?」

 名刺に目を落とした三嶋さんは、私とシロ先輩の顔を交互に見る。まあ、仕方ない。

「矢城です。こちらの八木とは漢字は違いますが……。ややこしくてすみません」

 苦笑しながら答えると、三嶋さんは楽しげに言った。

「じゃあ、あなたのことは明日花さんと呼ばせていただきますね。よろしくお願いします」

 思いがけず下の名前で呼ばれ、少しくすぐったく感じる。一通り自己紹介が終わったところで、頼んでいた飲み物が届いた。

 その後はシロ先輩と白谷吟が中心となり、今後のスケジュールや段取りについて話が進む。私はメモを取りながら耳を傾けた。
 プロジェクトの本格始動は来月から。今日は顔合わせを兼ねた軽い打ち合わせだった。

 打ち合わせは順調に進み、予定より早く終了した。
 エレベーターホールへ向かう途中、三嶋さんが私の隣にスッと並び小声で話しかけてきた。

「明日花さん、どうですか? うちのホテルの雰囲気は」

 突然の質問に少し驚いたが、率直な感想を伝える。
 駅から徒歩五分と立地が良く、広い駐車場も完備されているので、車でも来やすい。
 何よりロビーの落ち着いた空間は、老若男女に好まれるだろう。

「とても素敵なところだと思います。以前から気になっていたのですが、なかなか来る機会がなくて」

 三嶋さんは嬉しそうに微笑んだ。
 そうしているうちにエレベーターが到着し、私たちは三嶋さんに見送られながら乗り込む。扉が閉まる直前、三嶋さんがふと思い出したように言った。

「明日花さんの結婚式も、ぜひ当ホテルで挙げてくださいね」

 突然の言葉に息を呑む。
 シロ先輩と白谷吟がぎょっとしたようにこちらを見た。
 ゆっくり閉まるドアの向こうで、三嶋さんが意味ありげに微笑みながら手を振る。
 私は会釈するのも忘れ、ただ呆然と立ち尽くした。
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