ここで私は、明日の私を待つ
人をいじめるのは楽しい。


自分が強ければいじめられることなんてないし、弱い人が悪いんだ。


それに、私には今、たくさんの友達がいる。


何ひとつ不自由のない、楽しい世界だ。


だから私は、今日も弱い人を落とす。


いくら恐れられても関係ない。


私は弱い人が嫌いだから。



*



『ピピピピッピピピピッ』


アラームの音で、今日も楽しい一日が始まる。


私は一軍女子で、弱い人はみんな私を恐れる。


やれと言ったらやってくれる、買ってこいと言ったら買ってきてくれる、何でもしてくれる友達だっている。


親はお金持ちで、欲しいものは何でも買ってくれる。


この世界には、私にとって何ひとつ不自由なんてなかった。


そして、私は学校が好きだ。


弱い人をいじめることができるから。


いじめは楽しい。


自分さえいじめられなければ、それでいい。


一階におりると、机の上に置いてある朝ごはんを食べて、学校に行く準備をした。


「行ってきます」


両親は朝早いため誰もいないけど、一応『行ってきます』だけはいっておく。


「美樹おはよう!」


家を出ると、何でもやってくれる親友の一人、咲希がいた。


「咲希おはよう。今日も早いね」


「美樹が遅いだけだよー。なんちゃって」


咲希はいつものように冗談を言って、笑っている。


「てか、川崎のヤツ今日は何してやろうか?」


咲希が楽しそうに言った。


川崎とは、今私たちが目をつけている、弱虫野郎だ。


昨日は逆らってきたからトイレの個室に閉じ込めて、上からホースで水をかけてやった。


あの時の川崎の叫び声、本当に最高だった。


「んじゃ今日は靴の中に泥でも塗ってやろうかな。それから、佐々木に告白でもさせるか。それを動画に撮って拡散!」


佐々木は隣のクラスの地味男。


川崎と佐々木なんて、地味同士お似合いだ。


「よし決まり!佳子と杏奈にも言っておくね!」


佳子と杏奈も私の親友だ。


あの二人も何でも協力してくれる、大切な親友。


角を曲がって校門が見えた頃、目の前に川崎の姿があった。


「おっ、ちょうどいいじゃん」


「今から凸っちゃう?」


私と咲希は、川崎の元へと走った。


まずは、ドンっとわざとぶつかって川崎を転倒させる。


「あーっ、ごめんねぇ、わざとじゃないんだー」


「美樹大丈夫?川崎の菌とかついてない?」


「わー最悪!バイキンに触っちゃった」


わざと大声で叫ぶと、周りのみんなは私のところに集まって、私の心配をしてくれる。


「橋本さん、宇都美さん…」


川崎が顔をあげて、軽々と私たちの名前を呼んだ。


「ああっ、私が踏んづけてたわ、ごめんごめん」


周りの子たちもノリに乗ってくれて、川崎を踏んづけたり、カバンのチャックを開けて逆さまにしたりと、川崎にとって不幸なことを次々としてくれた。


「川崎さん、起こしてあげる」


私は川崎に手を差し出した。


川崎は私の手を掴む。


「わあっ」


「ねぇ川崎さん重すぎー」


私はわざと川崎の手を離した。


川崎は再び転倒した。


「だっさー」


周りからもケラケラと笑い声が聞こえる。


「ヤバ!あと五分でチャイム鳴っちゃうよ!」


誰かがそう叫んで、私たちは川崎を置いてその場を後にした。


「誰か、助けて…」


そんな川崎の声には、誰も振り返らなかった。


チャイムが鳴る一分前に、私たちは教室に着いた。


「ギリセーフ!」


イエイ!と咲希と二人でハイタッチをする。


そこに、佳子と杏奈が来た。


「二人とも遅すぎ!どうせ美樹が寝坊でもしたんでしょ?」


「なーんで私なのよ。てか聞いてよ!さっき校門で川崎に会ったの」


私は今さっきの出来事を二人に話した。


「えー何それ、ちょーウケる」


「やっぱ川崎最高だわ」


本当に楽しい。


これで川崎の遅刻が確定するのも、あの時の川崎の顔も、思い出すだけで口角が上がる。


こうして笑い合える友達がいることが、何より楽しいし嬉しい。


そうこうしているうちに、チャイムが鳴った。


「はい川崎遅刻ー!」


そう私が叫ぶと、クラスはわーっと盛り上がる。


「川崎また遅刻かよ」


「ほんと、何回目だよ」


このクラスのカースト一位は私。


みんな私のいうことをちゃんと聞いてくれる。


だから私の毎日は本当に充実している。


こんなにたくさんの人に恵まれて、たくさんの見方がいるんだもの。


そう、川崎だって私のいうことを聞いとけば、こんなことにならなかったのにね?


しばらくして、先生が入ってきた。


「今から出欠とるぞー。相原」


「はい」


「安藤」


「へーい」


「おい、なんだその返事は!」


このくだりもいつものことだ。


けれど、やっぱり何回聞いても面白い。


「おっと、川崎は今日も遅刻か。アイツはそろそろ反省文だな」


ざまあみろ。


みんなクスクスと笑っている。


「せんせー、それ昨日も言っていませんでしたっけ?」


本当は言っていないけど、杏奈は川崎を懲らしめようと嘘をついた。


「あーっ、そういえば言ってたかも!」


「俺も聞いた!」


みんな聞いてもないことを口々に言い出す。


この調子で、川崎をもっともっと苦しめてやるんだから。


と、そこに砂だらけの川崎が来た。


砂まみれの川崎を見て、みんなはまたクスクスと笑い出す。


「おい川崎、遅刻した上に教室を汚すなよ」


先生が呆れたように言った。


「そうだよ川崎さん。汚いからあっち行ってよ」


クラスメイトたちは、川崎に出て行けコールをし始めた。


最初はその場に立ち尽くして下を向いていた川崎だったが、しばらくして教室を出て行った。


するとみんなは、「逃げた!」やら「だっさー」やら口々に言って盛り上がっていた。


先生も、その様子を頷いて見ていた。


「おーい誰か、ほうきとちりとり持ってきてくれないか?ここに砂が落ちてるんだ」


よく見ると、真っ白な床に茶色い砂が落ちていた。


「そんなの落とした川崎にやらせればよくない?」


「確かに!」


私もその意見に賛成だった。


「川崎がいつ戻って来るかわからないじゃないか。それに、誰かが滑ったら危ないからな」


先生の言葉にみんなが納得した。


私たちが片付けた代償は後でもらうとしよう。


「ねぇ美樹。さっきの川崎ちょー面白かったね!」


「それなー!」


「やっぱり美樹がいると楽しいわ」


「美樹と友達でよかった」


これが本心かどうかなんて、何だっていい。


私に着いてきてくれる人がいればいいんだから。


「ねぇねぇ、川崎の弁当どうする?」


そういえば、さっき誰かが川崎のカバンを逆さまにした時に、弁当が出てきた。


「そりゃあもちろん捨ててやるでしょ」


「だよね!」


川崎はいつも食堂でパンを買うから弁当を持って来るのは珍しいし、こっちとしてはやるネタが増えるからメリットだ。


川崎がどんな反応をするのか、楽しみで仕方がない。


「でも、いつ川崎のカバンから弁当を取り出そうか?」


別にいつも堂々とやってるんだから見つかってもいいんじゃないの?


私はそう思った。


けれど、佳子にも考えがあった。


「自分の弁当が捨てられるとこを見たらそりゃあ焦ると思うけど、やっぱりいざお昼が来た時に食べようと思っていた弁当が捨てられていた方が、いいリアクションが見られるんじゃないかなって思って」


「あー確かに」


「頭いい!」


私にはその考えは思いつかなかったな。


こういう時に佳子みたいな、しっかり考えられる人がいると本当に助かる。


「じゃあ、四限の体育の時に川崎が移動したら実行しようよ!」


「そうだね」


「さんせー!」


あー、四限が待ち遠しい。


「起立、気をつけ、礼」


「ありがとうございました」


ようやく三限が終わった。


四限が待ち遠しかったせいか、一、二、三限が長く感じた。


川崎は一限の始めに、保健室で制服を借りて戻ってきた。


「アイツいつ移動するんだよ」


「遅すぎだっつーの」


咲希と杏奈がピリピリしている。


私は小さく足を動かして椅子を蹴りながら、川崎の動きを見ていた。


しばらくして私たちの視線に気づいた川崎は、体操着を持って小走りで教室を出て行った。


「はぁ、やっと出て行った」


「もう時間ないのに」


私たちは川崎の個人ロッカーを開け、カバンを取り出した。


川崎はもう行ったからバレることはない、大丈夫だ。


「あったあった」


佳子が川崎の弁当を取り出した。


「アイツ幼稚かよ」


川崎の弁当袋は、小さい子向けのアニメキャラクターの袋だった。


私たちは川崎の弁当を後ろの席に置いて、弁当箱を取り出した。


「ついでにこの袋も捨てちゃう?」


杏奈が言った。


「いいね!」


私はいいと思ったけど、佳子が顔をしかめた。


「でもさ、袋がなかったら怪しまれない?カバンに入れた時は袋があったのにって。中身だけ捨てて袋で包んだ方がいいかも」


「確かにそうだね」


そっと弁当箱の蓋を開ける。


「うわっ、まずそー」


「こんなの食べたくないわ」


川崎の弁当は、魚だらけだった。


魚は好きだけど、こんなに入ってると食べる気が失せる。


まあ私のじゃないんだけど。


私たちは川崎の弁当を持って、食堂のゴミ箱に捨てた。


これも『教室だと臭うから』という佳子の意見で。


「さっ、後は私がやっとくからみんなは先に行ってて」


まもなくチャイムが鳴る。


後は弁当箱を包むだけだし、私ひとりでも大丈夫だ。


「でも、それじゃあ美樹が怒られちゃうよ…」


「大丈夫。適当に言い訳しといて」


「わかった」


私はバタバタと教室を出ていく三人を見送った。


川崎の弁当を元に戻して、教室を出ようとした頃に、チャイムが鳴った。


どうせ遅刻だし、三人が適当に言い訳してくれているだろうと思い、ゆっくりと歩いて体育館に向かった。


「橋本、大丈夫か?」


体育館に入ると、体育教師の松田先生が来た。


三人が何を言ったのかはわからないが、上手く誤魔化せたようだ。


「はい。大丈夫です」


「無理すんなよ」


今日の体育はバスケ。


いつもなら仮病を使うところだが、私はバスケ部ということもあり、なんとしてでも休みたくなかった。


「よーい、始め!」


軽くアップをした後、試合が始まった。


私のチームは五人チームで、私、咲希、佳子、杏奈、そして川崎。


コートの数が限られてるため、最初は私たちのチームはお休みだ。


「川崎運動音痴だし最悪」


「うちらのチーム負け確だわ」


佳子と咲希が川崎に聞こえるように、わざと大声で言った。


川崎は下を向いて俯いている。


「なんとか言えよ!」


と、杏奈が歩み寄ったところで笛が鳴った。


「終了!次はBチーム対Cチーム」


杏奈は、チッと舌打ちをしてコートに入った。


「足引っ張ったらどうなるかわかってる?」


私はそう川崎に言って、杏奈の後に続いた。


「よーい、始め!」


試合が始まった。


佳子からボールを受け取った私は、必死に走ってゴールを決めた。


「美樹ナイス!」


川崎以外のチームみんなとハイタッチをして、次の立ち位置に立った。


次は相手の番。


私たちがディフェンス側だ。


「杏奈いけるよ!」


杏奈が相手からボールを取った。


と、そこに川崎が突っ込んでいった。


「わあっ!」


川崎に押されて、杏奈は尻もちをついた。


「大丈夫?」


みんなが杏奈に駆け寄る。


「うん、大丈夫。それより川崎!あんた何なの!?」


杏奈は川崎を睨んだ。


「いきなり突っ込んでこないでよね。突き指したし最悪」


どうやら杏奈は、突き指までしたみたいだ。


「ご、ごめんなさい…。みんなの足引っ張らないようにって、ボール取るのに必死で…」


川崎は目に涙を溜めて俯いた。


「いやいや、逆に足引っ張ってるから」


「そうだよ。チームメイトがボール取ったってのに、突っ込んでくのがおかしい」


「ごめんなさい」


川崎は深く頭を下げて泣いている。


「こんなんで泣くなよカス」


「泣きたいのは杏奈だよ」


みんなで川崎を責める。


川崎のやったことは、普通に考えておかしいんだから。


「いくら運動音痴だからって、あれはないよね」


四限の体育が終わり、教室に向かっている私たち。


ここで出るのはやっぱり、さっきの川崎の話題だ。


「アイツわざとぶつかってきたんじゃないの?」


ふと私がつぶやいた。


一瞬だけシーンとなった。


しかしすぐに、咲希が口を開いた。


「うわーマジか。アイツ最低すぎでしょ」


咲希に続いて、佳子や杏奈も愚痴を言い出した。


「そうかもしれないね。うん、やっぱアイツ嫌い」


「川崎のくせにウザすぎるんですけどー」


こんな話をしながら教室に戻ると、みんなお昼ご飯を食べていた。


そして、ちょうど川崎は自分のカバンを机の上に置いた。


あんたも今から弁当を食べようと思ってるかもだけど、私たちが捨ててやったんだよ。


心の中でそうつぶやいて、こっそり笑った。


「おっ、弁当取り出したよ」


教室のドアからこっそり、川崎の様子をうかがう。


「袋開けた!」


そして弁当箱を開くと、何も入ってないっていうオチ。


川崎の反応が楽しみで、心臓の音が聞こえそうなくらいに脈打つ。


いよいよ川崎が、蓋を開けた。


川崎は手で口元を覆って、動揺している様子だ。


「せっかくお母さんが作ってくれたのに…」


微かにこんな声が聞こえた。


「面白!ちょーウケるんですけど」


「ガチ最高だわ」


「杏奈の仕返しってことで」


やっぱり弁当の中身を捨ててやって正解だった。


「お母さんが…朝早くから作ってくれたのにっ…」


川崎は机に伏せて泣いている。


「ドンマイ。美樹の言うこと聞かないからこうなるんだよ」


そう、いじめの原因は川崎だ。


全ては私に逆らったアイツが悪いんだ。


「まあ自業自得でしょ」


そんな話をしていると、川崎が私たちに気づいて近づいてきた。


「ねぇ、私のお弁当捨てたの橋本さんたちでしょ?」


別に隠す必要なんてないから言ってやろう。


「なーんだ、バレちゃったか」


「ちょっと美樹!?」


杏奈が慌てた様子で私の腕を掴んだ。


「杏奈」


佳子が杏奈の手を掴んで、私の腕から退かした。


「なんで…なんでこんなことするのよ!」


川崎の目は、今までに見たことがないくらい怒りに満ちていた。


でもそんなことは関係ない。


川崎みたいな底辺野郎なんて、全く怖くないんだから。


「なんでって、あんたが私に逆らったからでしょ?」


「そうそう、美樹に逆らわなかったらこんなことにならなかったのにね」


「自業自得だよ」


やっぱりこの三人は最高の親友だ。


私の代わりに何でも言ってくれる。


川崎は拳を握りしめていた。


「じゃーねー。川崎さんっ」


私たちは川崎の前から移動した。


後ろから視線を感じる。


きっと、川崎が私たちを睨んでいるのだろう。


弱いヤツは一生私たちには勝てないんだよ。


そう思うと、また笑えてきた。


さっきの川崎の表情が、たまらなく面白かった。


今度は佐々木に告白するところを動画に収めてやろう。


「そろそろ佐々木に告白してもらおうかなー」


「おおっ!いいね!」


「ちょっと川崎呼んでくるわ」


杏奈が川崎を呼びに行った。


しばらくして、杏奈に腕を掴まれながら川崎が来た。


「橋本さん…次は何をする気ですか?」


川崎がか弱い声で言った。


「何をするって…何をしてくれるんですか?でしょーが!」


「ひっ…!」


川崎の腹部をひと蹴りすると、川崎はその場に尻もちをついた。


私は腕を組んで川崎の前に立った。


「あんた、放課後佐々木に告白しな」


私の言葉に川崎は目を丸くして、顔を上げた。


「わ、私が?」


はぁ…コイツは何を言ってんだか。


「お前以外誰がいるんだよ」


佳子が鼻で笑いながら言った。


「い、いや…告白なんてできないよ」


川崎は怯えた声で言った。


「あんた、また美樹に逆らう気?」


「できるかどうかじゃなくて、やるんだよ」


川崎は諦めたかのように、


「はい…やります」


と言った。


「最初からそう言えばいいのよ」


私はフンッと鼻で笑った。


「じゃあ放課後に屋上集合で。佐々木も呼んでおくから」


そう言って私たちはその場を後にした。


「あー楽しみだなー」


放課後、チャイムが鳴った瞬間に教室を飛び出して屋上に来た私たち。


川崎はまだ教室で荷物をまとめていた。


「おっ、佐々木じゃね?」


実はあの後、佐々木に「川崎が佐々木に言いたいことがあるらしい」と伝えた。


佐々木はソワソワした様子で屋上のフェンスへと歩いていた。


「もう告白って気づいてるかもしれないね?」


「そりゃああんなにソワソワしてるもんね」


そんなことを話してると、川崎が来た。


川崎はもう佐々木がいるとは思わなかったのだろう。


屋上のドアを開けた瞬間、佐々木が振り向いて慌てていた。


「川崎さん…」


「あ、あの、佐々木くん」


「何?言いたいことって」


こんな会話を聞きながら、私はスマホを構えた。


そして、録画ボタンを押して撮影を始めた。


「あの…」


「うん」


川崎が告白するまであと少し。


興奮して、私の心臓はドクドクと音を立てている。


そして、ついにその時はきた。


「私、佐々木くんのことが好きですっ、つ、付き合ってください…」


川崎は佐々木に片手を差し出してお辞儀をしている。


佐々木はニヤニヤしている。


「これは成功かー?」


佳子がクスクス笑いながら言った。


しかし、佐々木の返事は意外なものだった。


「川崎さん、ごめん。君とは付き合えない」


「え?」


川崎も私たちも、みんな唖然としている。


「いやー、俺好きな子いるし」


佐々木に好きな子がいるなんて意外だった。


「だ、誰?」


川崎は佐々木の好きな人が気になるようだ。


まさか、本当に佐々木のことが好きだったりして。


「俺の好きな人は、君と同じクラスの橋本さんだよ」


「は?」


アイツ、今なんて言った?


「佐々木って美樹のこと好きなの?」


「キモ」


佐々木に好かれていたなんて…。


気持ち悪すぎて言葉が出ない。


「じゃ、そういうことだから」


そう言って屋上から出ようとする佐々木を川崎が止めた。


「あ、あの!橋本さんはやめといた方がいいよ…」


それを聞いた佐々木は顔を真っ赤にして怒鳴った。


「お前、俺の好きな人を悪く言うんじゃねぇ!俺が誰を好きになろうがお前には関係ないだろーがクソ女!」


そう言って佐々木は屋上を出た。


予想外の展開に、私たちは目を丸くした。


しばらくして、川崎の泣き声が聞こえた。


そこでようやく我に返った私たちは、撮影停止ボタンを押した。


「こんなはずじゃなかったよね?」


「川崎が出てくれないとうちら帰れないじゃん」


「川崎って佐々木のこと好きなの?」


「絶対そうだよね」


私たちは川崎が屋上を出るまで、ヒソヒソとさっき見た出来事について話し合っていた。


そして、川崎が屋上を出て行って私たちも家に帰った。


次の日、私たち4人は朝早くから集まって、昨日の川崎の動画を見ていた。


「ここはカットで、この部分だけ拡散しよう!」


動画をカットしたり編集したりして、動画を拡散する準備をした。


それからあの手この手で動画を拡散した私たち。


その動画を見たみんなは、前よりもっと川崎への当たりが強くなった。


こうして私たちは毎日川崎をいじめていた。


「じゃ、また明日」


ある日の放課後。


今日は私以外の3人が先生から呼び出されていたため、私だけ先に帰った。


「それにしても、川崎の動画面白いなー」


今日撮った川崎が全裸になる動画を見てひとりで笑っていた。


少し先の信号は青だ。


私はスマホをいじりながら歩いていた。


そのとき、それは起きた。


キィィィとブレーキを踏む音と、「危ない!」という男の人の声が聞こえて立ち止まった。


私の目と鼻の先に大きなトラックが迫ってきていた。


その場から動けず、私のカラダは宙を舞った。


ああ、さっきまで青信号だったのに今は赤信号だ。


私はいつのまにか意識を手放していた。


目を開けると、いつも通り自分の部屋の天井が見えた。


正直昨日のことは何も覚えていない。


「まあいっか」


起き上がって一階におりる。


「あれ?」


リビングのドアを開けると、珍しくお母さんがいた。


「お母さんおはよ」


何年振りの朝の挨拶だろうか。


毎朝起きた時には、お母さんはもういないから、今日はなんだか特別な一日になりそうだ。


そう思っていた。


けれど、お母さんの様子がおかしかった。


「は?気安く"お母さん"だなんて呼ばないでくれる?」


「えっ…」


あんなに優しかったお母さんに、まさかこんなことを言われるなんて…。


もしかして、川崎をいじめていたことがバレた?


それに、今日は朝ごはんも準備されていない。


「あの、朝ごはんって…」


そう言うと、お母さんは私を睨みつけた。


「朝ごはん?そんなのあるわけないじゃない!あんたまでお母さんに苦労かけさせないでくれる?」


お母さんは、「はぁ」とため息を吐いて、リビングから出て行った。


「どうしたんだろう」


こんなお母さんを見るのは初めてだ。


会社で何かあったのだろう。


そう思うことにした。


私はトースターで食パンを焼いて食べた。


そして、学校に行く準備をする。


家を出る時、お母さんの靴がなかった。


「いつの間に出てったんだろう」


全く気がつかなかったな。


靴を履いて、玄関のドアを開けた。


「あれ?」


いつもいるはずの咲希が、今日はいなかった。


「寝坊かな」


しばらく待ってみようと思ったけど、時間を見たらギリギリだったため、学校へ行くことにした。


何気にひとりで登校するのは久しぶりだ。


今日は教室に行くまでに川崎を見かけたら、ひとりで仕掛けよう。


「咲希?」


たった今、咲希が校門を通り過ぎた。


私は咲希の元へ駆け出した。


が、すぐに足を止めた。


何故なら、咲希は川崎と歩いていたのだから。
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