身代わりの仮婚約者になったら、銀髪王子に人生丸ごと買い占められた件
昼休み。私はいつものように、校舎裏の物置小屋の陰で、母が作ってくれた愛情たっぷり卵焼き入り弁当を広げていた。庶民は目立つとロクなことにならない、それが私の学園生活のモットーだ。
すると、広間の方から異様なざわめきが聞こえてきた。
「え、何事……?また誰かの誕生日パーティー?」
この学園では、生徒の誕生日祝いにプロのオーケストラを招いたり、飛行船をチャーターしたりする。庶民には理解不能な世界だ。
好奇心に負けて、そーっと広間の入り口に近づいてみると、そこには人だかりの渦。その中心には、この学園の絶対的権力者、一条蓮(いちじょう れん)様がいた。
財閥の御曹司で、理事長の息子。
17歳にしていくつもの企業を経営しているという、本物の超人。銀髪に、吸い込まれるようなアイスブルーの瞳。整いすぎた顔立ちは、まるで二次元から飛び出してきたかのような完璧さ。「王子」という言葉は、彼のためにあると言ってもおかしくはない。
「蓮様、今月のパーティは私と!」
「いいえ、わたくしとですわ!」
押し寄せる令嬢たちの波。一条様は顔色一つ変えず、
けれど明らかに不快そうに耐えている。
(うわー、大変だなぁ……)
他人事のように眺めていた、その時だった。
一条様の冷たい瞳が、入り口の陰にいた私を捉えた。
心臓が、ドクリと跳ねる。
「……君だ」
え? 私?何が起こった?
一条様は令嬢たちを遮り、真っ直ぐに私を指差した。
広間の視線が、一斉に私に集まる。全員が、固まった。
一条様は口元に微かな笑みを浮かべ
全校生徒に聞こえる声で告げた。
「今日から君が、僕の仮の婚約者だ」
広間に響き渡る悲鳴。そして、私の思考停止。
(え、ちょっと待って……?)
私が……あの、一条様の……婚約者……?
私の平凡な学園生活は、今日、この瞬間に。
音を立てて、完全に終わった。