アンコールはリビングで
『仕事から帰ってきて……リビングの香りを感じた時、ですかね。その瞬間に、一番ホッとします』

ドクン、と。私の心臓が大きく跳ねた。

『おおっ! リビングの香り、ですか! 柔軟剤とか、アロマとか、そういうお気に入りの香りがあるんですか?』

『ええ、まあ……そんなところです。帰るべき場所の匂いがすると、鎧を脱いで、ただの自分に溶けて戻れる気がするんですよね』

穏やかで、どこまでも優しい声だった。

SNS上ではきっと今頃、「どんな素敵な匂いのリビングなんだろ……」「早瀬くんが帰ってくる部屋……想像だけで白米進む!」「絶対スタイリッシュでおしゃれな家だよね!」とファンたちが沸き立っていることだろう。

でも、私だけは知っている。
彼が言う『リビングの香り』が、私が作る夕食の出汁の匂いや、2人で使っている同じ柔軟剤の香り、そして、私自身から香る石鹸の匂いのことだということを。

公共の電波に乗せて、彼がこっそりと私にだけ分かる愛のメッセージを送ってくれたことに気づき、私はオフィスのデスクに座ったまま、顔から火が出るほど赤くなってしまった。

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