08 ーHACHIー ~俺の彼女と私の彼~
EP103 彼方へ(2)
Mathewとユイは狭いヘリの座席に収まる。
自分だけ安全に逃げることを心の中で悔やんだ。
しかし何度考えても、生き残らなければならない。
球骨腫の子供たちの未来のために。
Mathewは何も言わない。……余裕がないのかもしれない。
派手な音を立てて空を駆けるヘリは、海上すれすれを不安定に進む。
(このヘリはどこへ向かっているのだろう?)
ユーリが待つリージョンNか。ミカゲの本邸があるリージョンFか。
そのどちらも違う気がしていた。
ヘリは何かに引き寄せられるように、ある一定の方角に進んでいる。
その先にあるものは、世界の果てなのかもしれない。
リージョンSを飛び立って30分が経過した頃、Mathewが告げた。
「漁船に救難信号を出した。まもなく合流できるが……ユイ、今すぐ海に飛び込んでくれ」
「え」
ユイの右側にあるドアのロックが外れる。
戸惑うユイ。追い打ちを掛けるようにMathewは言葉を続けた。
「このヘリは細工されているようだ。……もう時間がない」
「Mathewは……あなたはどうするの?」
「俺も飛び込む。そのドレスでは泳げないだろう」
迷っている暇はない。
今すぐに飛び込まなければ、Mathewを守れない。
Mathewの姿を振り返る暇もなくユイは、海へ飛び込んだ。
背後で、ヘリが勢いよく爆破する。
「Mathew!」
その爆風に煽られて、ユイは暗い海へ沈む。
海は思ったほど冷たくは無かった。
まるで時間が止まっているかのような不思議な感覚。
沈みながら管理者・SZの、あの言葉を思い出していた。
『守護者は30年に一度、海門を開く。その際、アゼリア中を包み込む世界規模の大雨が降る』
守護者とは“神シュゼルト”のことを指すと、ユイはようやく理解した。
どうして管理者・SZの見た目がヒロトに似ていたのか。
もう答えは出ていた。
『その雨に君の因子を流し込め。ただしその代償については誰もわからん』
あの言葉は、世界の守護者・シュゼルトの意思だった。
それなら私はこの海に私の因子を流したい。
けれどどうやって流せばいいのか方法を聞くべきだったと、ユイは思った。
沈むスピードが緩やかになった。
誰かに支えられているような気さえする。
Mathewの身体が気がかりだった。
機械が海水に浸かればどうなるか、想像するまでもない。
首からヒロトのファミリー・リングが飛び出す。
『ずっと君のそばにいると誓う』
その声が海の中で耳に届く。
あの時はこの言葉にどれほど安心できたか分からなかった。
でも今は、聞くたびに苦しくなってくる。
そこにあるのはただただ純粋な想いだけなのに――。
(マシュー……)
それは呼べない名前。
でもずっとずっと大切だと思い続けた名前。
(私はマシューを……)
その続きはもう心の中でさえも言えない。
何度否定しても何度でも沸き起こってくる。
……苦しい。
自分だけ安全に逃げることを心の中で悔やんだ。
しかし何度考えても、生き残らなければならない。
球骨腫の子供たちの未来のために。
Mathewは何も言わない。……余裕がないのかもしれない。
派手な音を立てて空を駆けるヘリは、海上すれすれを不安定に進む。
(このヘリはどこへ向かっているのだろう?)
ユーリが待つリージョンNか。ミカゲの本邸があるリージョンFか。
そのどちらも違う気がしていた。
ヘリは何かに引き寄せられるように、ある一定の方角に進んでいる。
その先にあるものは、世界の果てなのかもしれない。
リージョンSを飛び立って30分が経過した頃、Mathewが告げた。
「漁船に救難信号を出した。まもなく合流できるが……ユイ、今すぐ海に飛び込んでくれ」
「え」
ユイの右側にあるドアのロックが外れる。
戸惑うユイ。追い打ちを掛けるようにMathewは言葉を続けた。
「このヘリは細工されているようだ。……もう時間がない」
「Mathewは……あなたはどうするの?」
「俺も飛び込む。そのドレスでは泳げないだろう」
迷っている暇はない。
今すぐに飛び込まなければ、Mathewを守れない。
Mathewの姿を振り返る暇もなくユイは、海へ飛び込んだ。
背後で、ヘリが勢いよく爆破する。
「Mathew!」
その爆風に煽られて、ユイは暗い海へ沈む。
海は思ったほど冷たくは無かった。
まるで時間が止まっているかのような不思議な感覚。
沈みながら管理者・SZの、あの言葉を思い出していた。
『守護者は30年に一度、海門を開く。その際、アゼリア中を包み込む世界規模の大雨が降る』
守護者とは“神シュゼルト”のことを指すと、ユイはようやく理解した。
どうして管理者・SZの見た目がヒロトに似ていたのか。
もう答えは出ていた。
『その雨に君の因子を流し込め。ただしその代償については誰もわからん』
あの言葉は、世界の守護者・シュゼルトの意思だった。
それなら私はこの海に私の因子を流したい。
けれどどうやって流せばいいのか方法を聞くべきだったと、ユイは思った。
沈むスピードが緩やかになった。
誰かに支えられているような気さえする。
Mathewの身体が気がかりだった。
機械が海水に浸かればどうなるか、想像するまでもない。
首からヒロトのファミリー・リングが飛び出す。
『ずっと君のそばにいると誓う』
その声が海の中で耳に届く。
あの時はこの言葉にどれほど安心できたか分からなかった。
でも今は、聞くたびに苦しくなってくる。
そこにあるのはただただ純粋な想いだけなのに――。
(マシュー……)
それは呼べない名前。
でもずっとずっと大切だと思い続けた名前。
(私はマシューを……)
その続きはもう心の中でさえも言えない。
何度否定しても何度でも沸き起こってくる。
……苦しい。