08 ーHACHIー ~俺の彼女と私の彼~
EP91 秘密(1)
リージョンR、J市。
そこは高台になった丘の上に立つ墓地の一角。
墓地には古い墓と新しい墓がひしめき合うように建てられていた。
「ここがヒロトの……墓?」
Mathewとトオル、セキジとでもう一度訪れたJ市。
白百合を抱えたユイとMathewは、トオルの案内でヒロトの墓に到着する。
「ああ」
ヒロトの墓地にはスズランの花が添えられてあった。
叔母のエレナが、少し前に墓参りに来たのかもしれない。
ここに墓があるという事実を、ユイは最後まで認めたくなかった。
正方形の墓石には、カザム教の刻印が刻まれている。
それは見たこともない不思議な形をしていた。
「どうしてここに墓があると分かったの?」
トオルから“ヒロトの墓がある”と聞いたときから不思議に思っていた疑問だった。
墓石を見つめたまま、トオルは沈黙を続ける。
「オレさ、人生で一番やっちゃいけないことをした。だから分かったんだ」
事の発端は数日前に戻る。
あれはユイがミカゲと一緒に報道会見を行った翌日だった。
トオルはその日、非番だった。
昨晩レイラはトオルの部屋で一夜を明かし、早朝に帰って行った。
夜を共にするのは初めてではなかったふたり。
これまで以上に二人が愛を確認し合った証のように、ベッドにはレイラの携帯端末が残されていた。
トオルはすぐにレイラに知らせようと思った。
けれどもその携帯に届いたのは、見知らぬ男性の名前と通信メッセージだった。
端末には何故かロックがされておらず、トオルが見ようと思えば中を見ることは可能だった。
「まさか、レイラの携帯端末のデータを……見たの?」
トオルは何も言わない。
ただユイを見つめる目は、哀しみに満ち溢れていた。
「ここから先はユイさんが知るべきではないかもしれない……」
「……受け止める覚悟はあるよ」
トオルは、嫉妬心からその誘惑に負けてしまった。
そして通信履歴の中は男性の名前で溢れていた。
中でも『ヒロト・セナ・リーシェン』という名前に、トオルは衝撃を受ける。
通信は全て文字通信だった。
最後にレイラが返信したのは、一年以上前だ。
『一時間後、リージョンRのフィレシア・ホテルで待つ』
信じたくなかった。
ふたりの間に何が起こったのかも考えたくもなかった。
しかし気が付けばトオルはその履歴を全て確認していた。
レイラは、ある人物と頻繁に連絡を取っている。
相手の名前は『グレン・ハン・グラゼル』。アゼレウス社の社長秘書だ。
休日のたびに頻繁にリージョンRでレンタカーを借りていること。
三か月前に通販で“妊娠検査薬”を購入していたこと。
そして最も信じたくなかったことは。
産院の定期受診予約の通知だった。
―*―
ユイはトオルに確認してもらいたいモノがあると告げた。
それはMathewが掴んだ矢についていた走り書きの文字。
トオルはその文章のつづりを見た途端、顔色を変えた。
その反応が全てを物語っていたし、もうそれで十分だった。
Mathewは一つだけユイに告げなかった。
使われている赤いインクにはあの消臭剤が使われていることを。
「セキジ。調べてくれる?」
「グレン・ハン・グラゼル様、でございますね」
「……ええ。それからレイラ・リード・リゼルという女性も」
「かしこまりました」
以前のユイであったなら、相当なショックを受けただろう。
それでも冷静な判断を下せるほどに、ユイは成長した。
そんな姿をいつまでも見ていたいと、Mathewは思った。
そこは高台になった丘の上に立つ墓地の一角。
墓地には古い墓と新しい墓がひしめき合うように建てられていた。
「ここがヒロトの……墓?」
Mathewとトオル、セキジとでもう一度訪れたJ市。
白百合を抱えたユイとMathewは、トオルの案内でヒロトの墓に到着する。
「ああ」
ヒロトの墓地にはスズランの花が添えられてあった。
叔母のエレナが、少し前に墓参りに来たのかもしれない。
ここに墓があるという事実を、ユイは最後まで認めたくなかった。
正方形の墓石には、カザム教の刻印が刻まれている。
それは見たこともない不思議な形をしていた。
「どうしてここに墓があると分かったの?」
トオルから“ヒロトの墓がある”と聞いたときから不思議に思っていた疑問だった。
墓石を見つめたまま、トオルは沈黙を続ける。
「オレさ、人生で一番やっちゃいけないことをした。だから分かったんだ」
事の発端は数日前に戻る。
あれはユイがミカゲと一緒に報道会見を行った翌日だった。
トオルはその日、非番だった。
昨晩レイラはトオルの部屋で一夜を明かし、早朝に帰って行った。
夜を共にするのは初めてではなかったふたり。
これまで以上に二人が愛を確認し合った証のように、ベッドにはレイラの携帯端末が残されていた。
トオルはすぐにレイラに知らせようと思った。
けれどもその携帯に届いたのは、見知らぬ男性の名前と通信メッセージだった。
端末には何故かロックがされておらず、トオルが見ようと思えば中を見ることは可能だった。
「まさか、レイラの携帯端末のデータを……見たの?」
トオルは何も言わない。
ただユイを見つめる目は、哀しみに満ち溢れていた。
「ここから先はユイさんが知るべきではないかもしれない……」
「……受け止める覚悟はあるよ」
トオルは、嫉妬心からその誘惑に負けてしまった。
そして通信履歴の中は男性の名前で溢れていた。
中でも『ヒロト・セナ・リーシェン』という名前に、トオルは衝撃を受ける。
通信は全て文字通信だった。
最後にレイラが返信したのは、一年以上前だ。
『一時間後、リージョンRのフィレシア・ホテルで待つ』
信じたくなかった。
ふたりの間に何が起こったのかも考えたくもなかった。
しかし気が付けばトオルはその履歴を全て確認していた。
レイラは、ある人物と頻繁に連絡を取っている。
相手の名前は『グレン・ハン・グラゼル』。アゼレウス社の社長秘書だ。
休日のたびに頻繁にリージョンRでレンタカーを借りていること。
三か月前に通販で“妊娠検査薬”を購入していたこと。
そして最も信じたくなかったことは。
産院の定期受診予約の通知だった。
―*―
ユイはトオルに確認してもらいたいモノがあると告げた。
それはMathewが掴んだ矢についていた走り書きの文字。
トオルはその文章のつづりを見た途端、顔色を変えた。
その反応が全てを物語っていたし、もうそれで十分だった。
Mathewは一つだけユイに告げなかった。
使われている赤いインクにはあの消臭剤が使われていることを。
「セキジ。調べてくれる?」
「グレン・ハン・グラゼル様、でございますね」
「……ええ。それからレイラ・リード・リゼルという女性も」
「かしこまりました」
以前のユイであったなら、相当なショックを受けただろう。
それでも冷静な判断を下せるほどに、ユイは成長した。
そんな姿をいつまでも見ていたいと、Mathewは思った。