メンヘラちゃんとヤンデレくん!?
許可がないと落ち着かない
朝の支度を終えた依音は、玄関で立ち止まった。
靴を履いたまま、スマホを握っている。
――あれ。
胸の奥が、少しざわついた。
理由は分かっている。
まだ、怜に言っていない。
依音は、画面を開いてメッセージを打つ。
『今日、放課後に購買寄ってから帰ってもいい?』
送信してから、じっと画面を見つめた。
……許可、だ。
自分でも気づいて、少しだけ不思議に思う。
でも、不安はすぐに安心に変わった。
数秒後。
『いいよ』
すぐ返ってきた。
それだけで、心が落ち着く。
『ありがとう』
そう送ってから、依音は玄関を出た。
学校。
昼休み、友達が声をかけてきた。
「ねえ依音、今度の日曜ヒマ?」
依音は、一瞬言葉に詰まった。
日曜。
怜に、聞いてない。
「……ちょっと、確認してからでいい?」
そう言って、スマホを取り出す。
『今度の日曜、予定入れてもいい?』
送信。
数分後、怜から返事が来る。
『誰と?』
正直だと思った。
『クラスの子』
少し間が空いてから。
『依音が疲れないなら』
『でも、帰りは俺と話そう』
依音は、ほっと息を吐いた。
『うん』
そのやり取りを、隣で見ていた友達が目を丸くする。
「……彼氏に許可とってるの?」
依音は、少し考えてから答えた。
「うん。そうした方が、安心だから」
友達は苦笑いしたけれど、
依音はもう気にならなかった。
放課後。
昇降口で怜と合流する。
「怜くん」
呼ぶと、怜はすぐにこちらを見る。
「今日、購買寄ってもいいって言ってくれてありがとう」
その一言で、怜の動きが一瞬止まった。
……言ってくれて?
怜は、依音を見る。
そこにあるのは、
怯えでも、遠慮でもない。
信頼。
「……依音」
「それ、俺に聞かなくてもいいことだよ」
本音だった。
管理している自覚はあっても、
“依音の方から”ここまで来るとは思っていなかった。
依音は、きょとんとした顔をする。
「でも」
「怜くんが大丈夫って言ってくれた方が、落ち着く」
当たり前みたいに。
怜は、言葉を失った。
驚いた。
本当に。
――もう、自分が基準になっている。
「……そっか」
ようやく、そう返す。
「じゃあ、これからも聞いて」
気づけば、そう言っていた。
依音は、嬉しそうに頷く。
「うん」
その瞬間、怜の胸の奥で、
小さく何かが壊れて、完成した。
夜。
怜は一人で、そのやり取りを思い返していた。
許可を求められることに、
驚くべきなのか、止めるべきなのか。
……もう遅い。
依音は、
“自分で決めるより、俺に委ねる方が楽”だと知ってしまった。
それを拒む理由なんて、
どこにもなかった。
「依音」
名前を呼ばないのに、口に出る。
次は、
許可じゃなくて――
確認。
報告。
最終的には、必要なくなる。
でも、それはまだ先でいい。
今日は、
依音が自分から扉を閉めてくれた日だから。
怜は、静かに微笑んだ。
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