毒を盛られた令嬢は、冷酷皇帝に溺愛される

第20章 激励と決意

翌朝、王宮の中庭に騒ぎが起きた。
門番たちが、慌てた様子で走ってくる。
「皇妃陛下! 大変です!」
エリアナは、自室の窓から顔を出した。
「何事ですか」
「辺境の村人たちが、王都に!」
門番の声が、興奮している。
エリアナの心臓が、跳ね上がった。
「村人たち?」
エリアナは、急いで外套を羽織り、中庭へ駆け出した。
カイザーも、既に中庭に立っていた。
王宮の門の前。
そこには、数十人の人々が集まっていた。
老村長。若い男たち。女たち。そして、子供たち。
辺境の村人たち。
全員が、ここにいた。
エリアナが門に近づくと、村人たちが一斉に振り返った。
「皇妃様!」
子供たちが、駆け寄ってくる。
門番が慌てて止めようとするが、カイザーが手を上げた。
「通してやれ」
カイザーの声が、優しい。
門が開かれた。
子供たちが、エリアナに駆け寄る。
「エリアナ様!」
「会いたかった!」
エリアナは、膝をついて子供たちを抱きしめた。
「みんな……」
涙が、溢れそうになる。
老村長が、ゆっくりと近づいてきた。
杖をついて、一歩一歩。
エリアナは、立ち上がった。
老村長が、エリアナの前で止まった。
そして、深く頭を下げた。
「エリアナ様」
老村長の声が、震えている。
「私たちは、貴女の味方です」
老村長が、顔を上げた。
その目には、涙。
「王都で、噂を聞きました」
老村長の声が、続く。
「皇妃様が、地下牢に入れられたと」
「皇妃様が、苦しんでいると」
村人たちが、次々と頷く。
「私たちは、じっとしていられませんでした」
若い男が、前に出た。
「皇妃様は、私たちの村を救ってくださいました」
「荒れ果てた土地を、薬草園に変えてくださいました」
女たちも、声を上げる。
「私たちの子供を、治してくださいました」
「希望を、与えてくださいました」
老村長が、エリアナの手を取った。
「だから、私たちは来ました」
老村長の声が、力強い。
「貴女を、支えるために。貴女の味方であることを、示すために」
エリアナの目から、涙が溢れた。
止められない。
村人たちが、一人一人近づいてくる。
「エリアナ様、頑張ってください」
「私たちは、ずっと貴女を信じています」
「貴女は、私たちの誇りです」
子供たちが、花を差し出す。
野に咲く、素朴な花。
だが、その一つ一つに、温かい気持ちが込められている。
「エリアナ様、これ」
一人の少女が、花束を渡す。
「村のみんなで、摘んできました」
エリアナは、花束を受け取った。
香りが、鼻をつく。
優しい香り。
温かい香り。
エリアナは、花束を胸に抱きしめた。
「ありがとう……」
エリアナの声が、震える。
「ありがとうございます、皆さん」
村人たちが、微笑んでいる。
老村長が、言った。
「エリアナ様、貴女は一人ではありません」
老村長の声が、温かい。
「私たちが、います。貴女の家族が、ここにいます」
エリアナの胸が、熱くなった。
家族。
本当の家族。
王都の屋敷では、誰もエリアナを家族として扱わなかった。
継母は冷たく、イザベラは嘲笑い、使用人たちは目を逸らした。
だが、ここにいる人々は違う。
村人たちは、エリアナを必要としている。
エリアナも、村人たちを必要としている。
共に働き、共に笑い、共に生きる。
それが、家族。
エリアナは、村人たちを見回した。
一人一人の顔。
温かい目。
優しい微笑み。
「私には……家族がいる」
エリアナは、呟いた。
涙が、頬を伝う。
「本当の家族が」
老村長が、エリアナの肩を抱いた。
「そうです。私たちは、家族です」
村人たちが、歓声を上げた。
「エリアナ様!」
「皇妃様!」
子供たちが、エリアナの周りで踊る。
カイザーが、その光景を見ていた。
その目は、優しかった。
カイザーが、エリアナに近づく。
「いい仲間を持ったな」
カイザーの声が、温かい。
エリアナは、頷いた。
「はい」
カイザーが、村人たちに向き直った。
「皆、よく来てくれた」
カイザーの声が、広場に響く。
「エリアナは、俺の妻だ。そして、お前たちの領主だ」
カイザーが、宣言する。
「俺も、お前たちを守る」
村人たちが、跪いた。
「陛下、ありがとうございます」
カイザーが、手を上げた。
「跪くな。立て」
村人たちが、立ち上がる。
カイザーが、微笑んだ。
「お前たちは、エリアナの家族だ。ならば、俺の家族でもある」
村人たちの目が、輝いた。
「陛下……」
カイザーが、エリアナの手を取った。
「今日は、宮殿で休んでいけ」
カイザーの声が、優しい。
「明日、村へ送り届ける」
村人たちが、頭を下げた。
「ありがとうございます、陛下」
エリアナは、村人たちと共に宮殿へ入った。
温かい気持ちに、包まれながら。
夕方、エリアナは銀狼と共に薬草園を歩いていた。
村人たちは、宮殿の客室で休んでいる。
カイザーが、手配してくれた。
エリアナは、薬草の間を歩きながら、銀狼に語りかけた。
「ありがとう」
エリアナの声が、優しい。
「貴方がいなければ、父の日記を見つけられなかった」
銀狼が、エリアナを見上げる。
その目には、知性の光。
エリアナは、銀狼の頭を撫でた。
「貴方は、いつも私を助けてくれる」
その時。
銀狼が、立ち上がった。
そして、口を開いた。
「お前は、誰よりも強い」
低い声。
人間の言葉。
エリアナの体が、固まった。
「え……?」
エリアナは、銀狼を見つめた。
銀狼が、まっすぐにエリアナを見ている。
「お前が、俺を救ったように」
銀狼の声が、続く。
「今度は、お前が自分を救え」
エリアナの息が、止まった。
「貴方……話せるの?」
銀狼が、頷くように鼻を鳴らした。
「俺は、魔獣の王だ」
銀狼の声が、誇らしげだった。
「千年を生きる、森の守護者」
エリアナは、膝をついた。
銀狼と目線を合わせる。
「なぜ、今まで話さなかったの」
銀狼が、答えた。
「時が来るのを、待っていた」
銀狼の目が、エリアナを見つめる。
「お前が、本当に強くなるのを」
エリアナは、銀狼を見つめた。
「私は……まだ弱いです」
「違う」
銀狼が、首を横に振った。
「お前は、強い」
銀狼が、一歩近づく。
「お前は、継母に虐げられても、諦めなかった。お前は、毒を盛られても、生き返った。お前は、地下牢に入れられても、希望を失わなかった」
銀狼の声が、力強い。
「それが、強さだ」
エリアナの目から、涙が溢れた。
「でも……怖かったのです」
エリアナの声が、震える。
「地下牢で、一人で、暗闇の中で。怖くて、怖くて」
銀狼が、エリアナに近づいた。
額を、エリアナの額に合わせる。
「恐怖を感じることは、弱さではない」
銀狼の声が、優しい。
「恐怖を感じても、前に進むことが、強さだ」
エリアナは、銀狼を抱きしめた。
「ありがとう」
エリアナの声が、囁く。
「貴方がいてくれて」
銀狼が、小さく鳴いた。
「俺は、お前の守護者だ」
銀狼の声が、誓いのように響く。
「お前を守り、お前を支える。それが、俺の使命だ」
エリアナは、銀狼を抱きしめたまま、泣いた。
安堵の涙。
感謝の涙。
銀狼が、じっとエリアナに抱きしめられている。
温かい毛並み。
力強い鼓動。
「もう、大丈夫だ」
銀狼が、囁く。
「お前には、俺がいる。カイザーがいる。村人たちがいる。お前は、一人じゃない」
エリアナは、頷いた。
「はい」
二人は、しばらく抱き合っていた。
薬草園の中で。
月明かりの下で。
静かな時間。
温かい時間。

夜、薬草園。
エリアナは、一人薬草を眺めていた。
村人たちは、既に休んでいる。
銀狼も、どこかで休んでいる。
エリアナは、薬草の葉に触れた。
柔らかい。
優しい。
その時、背後から声が聞こえた。
「エリアナ」
カイザーの声。
エリアナが、振り返る。
カイザーが、薬草園の入口に立っていた。
黒い服を着て、月明かりに照らされている。
「カイザー」
エリアナが、微笑む。
カイザーが、ゆっくりと近づいてきた。
エリアナの前で、止まる。
そして。
カイザーが、跪いた。
エリアナの目が、見開かれた。
「カイザー?」
カイザーが、エリアナを見上げた。
その目は、真剣だった。
「エリアナ」
カイザーの声が、低く響く。
「改めて、俺の皇妃になってくれ」
カイザーが、懐から小さな箱を取り出した。
開ける。
中には、指輪。
銀色の指輪。中央に、深い青の宝石。
月明かりに照らされて、輝いている。
「契約でも、何でもない」
カイザーの声が、続く。
「心から、お前を愛している。お前と共に、生きたい。お前と共に、笑いたい。お前と共に、老いたい」
カイザーの目が、エリアナを見つめる。
「俺の妻になってくれ」
エリアナの目から、涙が溢れた。
止められない。
「カイザー……」
エリアナの声が、震える。
「私も……」
エリアナは、膝をついた。
カイザーと目線を合わせる。
「私も、貴方を愛しています」
エリアナの声が、囁く。
「心から貴方と共に、生きたい。貴方と共に、笑いたい。貴方と共に、老いたい」
エリアナが、手を差し出した。
カイザーが、指輪をエリアナの指にはめた。
ぴったりと、収まる。
指輪が、月明かりに輝く。
カイザーが、立ち上がった。
エリアナも、立ち上がる。
二人は、見つめ合った。
カイザーが、エリアナを抱きしめた。
強く。
エリアナも、カイザーを抱きしめた。
「愛している、エリアナ」
カイザーの声が、耳元で響く。
「俺の全てだ」
「私も、愛しています」
エリアナが、囁き返す。
「貴方が、私の全てです」
カイザーが、エリアナの顔を両手で包んだ。
そして、キスをした。
優しく。
深く。
エリアナは、目を閉じた。
カイザーの唇。
温かい。
愛おしい。
キスが、深くなる。
二人は、時間を忘れて抱き合った。
その時、空に、花火が上がった。
ドンッという音と共に、色とりどりの光が夜空を彩る。
エリアナが、顔を上げた。
「花火……?」
カイザーが、微笑んだ。
「俺が、手配した」
カイザーの声が、誇らしげだった。
「お前への、プロポーズの演出だ」
エリアナは、笑った。
「貴方らしいです」
花火が、次々と上がる。
赤、青、緑、金色。
夜空を、美しく染める。
エリアナとカイザーは、並んで花火を見上げた。
手を繋いで。
「綺麗ですね」
エリアナが、呟く。
「ああ」
カイザーが、答える。
「だが、お前の方が綺麗だ」
エリアナの頬が、赤くなる。
カイザーが、エリアナを抱き寄せた。
二人は、花火を見上げ続けた。
幸福な時間。
愛に満ちた時間。
花火が、終わった。
静寂が、戻る。
だが、二人の心には温かさが残っていた。
カイザーが、エリアナを見た。
「これから、どうする」
エリアナは、少し考えた。
そして、答えた。
「継母を、裁判にかけます」
エリアナの声が、きっぱりと響く。
「父の無念を、晴らすために」
カイザーが、頷いた。
「俺が、全面的に支援する」
カイザーの声が、力強い。
「お前の戦いは、俺の戦いだ」
エリアナは、カイザーの手を握った。
「ありがとうございます」
エリアナが、薬草園の奥へ歩いた。
小さな石碑がある。
父を偲んで、エリアナが建てたもの。
エリアナは、石碑の前で膝をついた。
懐から、父の日記を取り出す。
「お父様」
エリアナの声が、静かに響く。
「必ず、正義を示します」
エリアナが、日記を胸に抱きしめた。
「継母を裁き、真実を明らかにします。貴方の無念を、晴らします」
エリアナの目に、強い光が宿った。
決意の光。
もう、迷わない。
もう、恐れない。
エリアナは、立ち上がった。
カイザーが、エリアナの隣に立つ。
「行くぞ」
カイザーの声が、優しい。
エリアナは、頷いた。
「はい」
二人は、手を繋いで薬草園を後にした。
銀狼が、どこからか現れた。
二人の後をついてくる。
月明かりが、三人を照らしている。
新しい戦いが、始まろうとしていた。
だが、エリアナは恐れない。
カイザーがいる。
銀狼がいる。
村人たちがいる。
そして、エリアナ自身の決意がある。
「必ず、勝つ」
エリアナは、呟いた。
カイザーが、エリアナの手を握りしめた。
「ああ。必ず」
銀狼が、小さく鳴いた。
三人は、宮殿へ向かった。
明日から、本当の戦いが始まる。
継母との、最終決戦。
だが、エリアナの心には不安はなかった。
希望だけがあった。
正義を示す希望。
父の無念を晴らす希望。
そして、新しい未来を築く希望。
夜空には、星が輝いている。
無数の星。
その一つ一つが、エリアナを見守っているかのようだった。
エリアナは、空を見上げた。
「見ていてください、お父様」
エリアナの声が、夜空に響く。
「必ず、勝ちます」
カイザーが、エリアナを抱きしめた。
「一緒に、戦おう」
エリアナは、頷いた。
「はい。一緒に」
三人は、宮殿へ入った。
新しい戦いへ。
希望に満ちた未来へ。
手を繋ぎながら。
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