聖職者失格、ですか?~密かにお慕いする令嬢のため、子どもたちと暗躍します~
喫茶&バー《ユートピア》
さて、そのお友達の元に向かう道中の間に、選抜メンバー……もとい私についてくると言って聞かなかったワガママっ子たちの紹介をしておこう。
まず、私が腕に抱えている4歳の女児・リーナ。人生2周目発言が眉唾のジト目幼女である。彼女の一言が発端なので、ひとまず連れて行くのは確定していた。
次に、私の右側を歩く男児について。彼はトビー、9歳。前髪を左右に分け、いかにも賢そうな丸眼鏡をかけている。実際、なかなかに賢い子だ。
私の左側を歩く、ポニーテールの女児はエマ。齢10歳にしてバザーの際には一帯の長机を仕切っていたやり手であり、お金の計算がとても速い。
三銃士を引き連れやってきたこの場所は、教会から子どもの足で20分ほど。見慣れた石畳を抜けて進んだ商店街の角にある、喫茶&バー《ユートピア》。
色褪せた店の看板を見たエマが、私に尋ねた。
「ねえ、神父様。ユートピアって、どういう意味?」
風雨にさらされ、朽ち果てかけた木の板で覆われた店の外観をまじまじと眺めていたトビーが代わりに口を開く。
「僕、知ってる。『ボロ屋』って意味でしょ?」
「正解です。さすがは我が教会きっての秀才ですね」
私とトビーの格調高い会話が壁の薄い店内から聞こえたらしく、軋む扉が開いて店主が顔を出した。
「お前ら張っ倒すぞ」
無造作ヘアの短髪男が、薄汚い理想郷から現実に降臨した。袖をまくった白シャツに黒ベストを身にまとい、腰にはエプロンを巻いている。
「お前たち、紹介します。こちらの目つきの悪い彼はシモン・キーラン、32歳男性。この《ユートピア》の店主であり、私の昔からの友人です」
――ええ、本当に昔からの。
「今日は子連れで遠足か? 珍しいな」
トビーはまじまじと見つめる対象を、店の外壁からシモンに移して言う。
「なんだ、友達ってオッサンじゃん」
「オッ、オッサ……おい、ルカ! 教育がなってねえぞ!」
「残酷な事実を申し上げますね、シモン。子どもにとっては30を過ぎた男性はもれなくオッサンらしいのです」
「……お前、2年後にいくつになるか数えたことあるか?」
たとえ算数ができても、耳を塞ぎさえすればノーダメージである。
思えば彼は年齢より老けて見られがちだ。苦労が多かったからかもしれない。
「さあお前たち、こちらのオッサ――シモンさんにご挨拶してください」
「「「シモンさん、こんにちは」」」
「…………おう」
シモンは、立派な大人として留飲を下げようと努力したようで、子どもたちの頭をわしゃわしゃと順番に撫でると、我々を顎で店内へと促した。
店内には相変わらず客がおらず、閑古鳥がこの場にいれば声が涸れるほど鳴いているであろう。
「うわあ……中の方がマシかと思ったけど、ボロさは大して変わらないね」
「ト、トビー、さすがに失礼よ」
エマが眼鏡男子の袖を引いてひそひそ声で諫める中、私はカウンター席へ、子どもたちはテーブル席にまとめて座った。
「ワンオーダー制だぞ、神父様」
「わかっていますよ、私はいつものを。お前たちも好きなものを頼みなさい。ただし、ひとり600エン以内ですよ!」
ちなみに店主のとある意向から、この店はフードメニューが大変充実している。しかし、600エン以内で頼めるものはドリンク程度だ。
楽しげな声を上げてメニューを隅から隅まで眺めていた子どもたちは、シモンを呼ぶとなぜか耳元でひそひそと注文を済ませていく。
強面の店主がオーダーを読み上げた。
「えー、ミルクセーキ、ソーダ、オレンジジュース、スーパーBIGプリンアラモードパフェだな。ちょっと待ってろ」
(なるほど、それぞれの好みがわかる注文ですね)
ミルクセーキはリーナ、ソーダはトビー、オレンジジュースはエマだろう。そこで私ははたと、彼らが3人しかいないことを思い出した。
(……しかも、スーパーBIGプリンアラモードパフェ!?)
私は正面に立てかけられたメニューに素早く視線を走らせた。1800エン。
「誰です、そんな高価なものを追加注文したのは!」
子どもたちは全員が異なる人物を指さす。周到な犯罪計画に、私は頭を抱えた。
「ほらコーヒーだ、神父様」
「……どうも」
オーダーが通ってしまったものは仕方ない。私は気を取り直し、差し出された苦くて黒い液体カフェインを一口飲む。
シモンが子どもたちに、甘ったるかったりシュワシュワしたり甘酸っぱかったりする飲み物を提供しているうちに、煙草を咥えマッチで火をつけた。
(コーヒーも煙草も。初めて口にした時は、大人になった気がしたものだ)
この苦くてまずいものを平然と口にできるようになることこそが、大人の証だと思っていた昔の私は本当に憐れである。
しかし今の私は、もっと愚かであるといえよう。
そろそろ神父として成熟すべきお年頃だというのに、アンナ嬢と出会って以来、私が励んでいるのはモラトリアムの延命措置ばかりである。つくづく見苦しい大きな子どもだ。
……などと憂い顔を浮かべ思わせぶりなフレーズを脳内で語りながら、煙草のうちで最も価値がある最初のひと吸いを堪能している間に、べこべこに凹んだ灰皿が差し出された。
金属製のそこに使用済みマッチと灰を落としつつ吐き出した煙の向こう側で、シモンが尋ねてくる。
「で、今日はどうした?」
私は、スーパーBIGプリンアラモードパフェ代に見合う情報を手に入れるべく口を開いた。
「実は……」
まず、私が腕に抱えている4歳の女児・リーナ。人生2周目発言が眉唾のジト目幼女である。彼女の一言が発端なので、ひとまず連れて行くのは確定していた。
次に、私の右側を歩く男児について。彼はトビー、9歳。前髪を左右に分け、いかにも賢そうな丸眼鏡をかけている。実際、なかなかに賢い子だ。
私の左側を歩く、ポニーテールの女児はエマ。齢10歳にしてバザーの際には一帯の長机を仕切っていたやり手であり、お金の計算がとても速い。
三銃士を引き連れやってきたこの場所は、教会から子どもの足で20分ほど。見慣れた石畳を抜けて進んだ商店街の角にある、喫茶&バー《ユートピア》。
色褪せた店の看板を見たエマが、私に尋ねた。
「ねえ、神父様。ユートピアって、どういう意味?」
風雨にさらされ、朽ち果てかけた木の板で覆われた店の外観をまじまじと眺めていたトビーが代わりに口を開く。
「僕、知ってる。『ボロ屋』って意味でしょ?」
「正解です。さすがは我が教会きっての秀才ですね」
私とトビーの格調高い会話が壁の薄い店内から聞こえたらしく、軋む扉が開いて店主が顔を出した。
「お前ら張っ倒すぞ」
無造作ヘアの短髪男が、薄汚い理想郷から現実に降臨した。袖をまくった白シャツに黒ベストを身にまとい、腰にはエプロンを巻いている。
「お前たち、紹介します。こちらの目つきの悪い彼はシモン・キーラン、32歳男性。この《ユートピア》の店主であり、私の昔からの友人です」
――ええ、本当に昔からの。
「今日は子連れで遠足か? 珍しいな」
トビーはまじまじと見つめる対象を、店の外壁からシモンに移して言う。
「なんだ、友達ってオッサンじゃん」
「オッ、オッサ……おい、ルカ! 教育がなってねえぞ!」
「残酷な事実を申し上げますね、シモン。子どもにとっては30を過ぎた男性はもれなくオッサンらしいのです」
「……お前、2年後にいくつになるか数えたことあるか?」
たとえ算数ができても、耳を塞ぎさえすればノーダメージである。
思えば彼は年齢より老けて見られがちだ。苦労が多かったからかもしれない。
「さあお前たち、こちらのオッサ――シモンさんにご挨拶してください」
「「「シモンさん、こんにちは」」」
「…………おう」
シモンは、立派な大人として留飲を下げようと努力したようで、子どもたちの頭をわしゃわしゃと順番に撫でると、我々を顎で店内へと促した。
店内には相変わらず客がおらず、閑古鳥がこの場にいれば声が涸れるほど鳴いているであろう。
「うわあ……中の方がマシかと思ったけど、ボロさは大して変わらないね」
「ト、トビー、さすがに失礼よ」
エマが眼鏡男子の袖を引いてひそひそ声で諫める中、私はカウンター席へ、子どもたちはテーブル席にまとめて座った。
「ワンオーダー制だぞ、神父様」
「わかっていますよ、私はいつものを。お前たちも好きなものを頼みなさい。ただし、ひとり600エン以内ですよ!」
ちなみに店主のとある意向から、この店はフードメニューが大変充実している。しかし、600エン以内で頼めるものはドリンク程度だ。
楽しげな声を上げてメニューを隅から隅まで眺めていた子どもたちは、シモンを呼ぶとなぜか耳元でひそひそと注文を済ませていく。
強面の店主がオーダーを読み上げた。
「えー、ミルクセーキ、ソーダ、オレンジジュース、スーパーBIGプリンアラモードパフェだな。ちょっと待ってろ」
(なるほど、それぞれの好みがわかる注文ですね)
ミルクセーキはリーナ、ソーダはトビー、オレンジジュースはエマだろう。そこで私ははたと、彼らが3人しかいないことを思い出した。
(……しかも、スーパーBIGプリンアラモードパフェ!?)
私は正面に立てかけられたメニューに素早く視線を走らせた。1800エン。
「誰です、そんな高価なものを追加注文したのは!」
子どもたちは全員が異なる人物を指さす。周到な犯罪計画に、私は頭を抱えた。
「ほらコーヒーだ、神父様」
「……どうも」
オーダーが通ってしまったものは仕方ない。私は気を取り直し、差し出された苦くて黒い液体カフェインを一口飲む。
シモンが子どもたちに、甘ったるかったりシュワシュワしたり甘酸っぱかったりする飲み物を提供しているうちに、煙草を咥えマッチで火をつけた。
(コーヒーも煙草も。初めて口にした時は、大人になった気がしたものだ)
この苦くてまずいものを平然と口にできるようになることこそが、大人の証だと思っていた昔の私は本当に憐れである。
しかし今の私は、もっと愚かであるといえよう。
そろそろ神父として成熟すべきお年頃だというのに、アンナ嬢と出会って以来、私が励んでいるのはモラトリアムの延命措置ばかりである。つくづく見苦しい大きな子どもだ。
……などと憂い顔を浮かべ思わせぶりなフレーズを脳内で語りながら、煙草のうちで最も価値がある最初のひと吸いを堪能している間に、べこべこに凹んだ灰皿が差し出された。
金属製のそこに使用済みマッチと灰を落としつつ吐き出した煙の向こう側で、シモンが尋ねてくる。
「で、今日はどうした?」
私は、スーパーBIGプリンアラモードパフェ代に見合う情報を手に入れるべく口を開いた。
「実は……」

