死にゆく私は、桜の世界で二度と散らない恋をした。
彼に連れて行かれたのは、屋上に続く階段の途中の踊り場だった。
後ろからついてきていた数人の女子たちは、三時間目の始まりを告げるチャイムの音に、渋々といった様子で教室へと引き返していった。
廊下に静寂が戻る。
でも、私たち二人は教室に戻る気なんてさらさらなかった。
「⋯⋯先輩、いい加減にしてください。クラスで変な噂が立ったらどうするんですか」
私は少し息を切らしながら、瀬口先輩に向き直ってお説教を始めた。
「いきなり教室に来るなんて非常識です。私、目立ちたくないのに⋯⋯」
「⋯⋯ああ、ごめん。そこまで嫌がるとは思わなかった」
ふっと視線を落として、しゅん、と肩を落とした。
いつも自信満々な彼が、急に捨てられた子犬のような表情を見せる。
そのあまりの豹変ぶりに、私の怒りはどこかへ霧散してしまった。
「⋯⋯あの、怒鳴りすぎました。ごめんなさい。でも、次からは⋯⋯」
心配になって、私は少しだけ彼に近づいた。
その瞬間、ガシッ、と強い力で腕を掴まれ、体ごと引き寄せられた。
「⋯⋯っ!?」
驚いて声も出ない私の首筋に、彼が顔を寄せた。
スンスン、と鼻を動かすように匂いを嗅がれた。
「やっぱり。咲菜ちゃん、なんかいいにおいする⋯⋯」
「⋯⋯っ、ちょっ、変態ですか⋯⋯!」
私は真っ赤になって彼を突き飛ばした。
彼はまたケラケラと楽しそうに笑い、私の反応を面白がっている。
「あはは!嘘だよ、ちょっと驚かせてみただけ。お詫びに今日も屋上で遊ぼ?とっておきの暇つぶし、用意してあるから」
彼のペースに、私はまたしても飲み込まれていく。
でも、なぜだろう。
彼が笑うたびに、私の心臓の痛みは、ほんの少しだけ和らぐような気がしていた。