死にゆく私は、桜の世界で二度と散らない恋をした。
診察室に呼ばれるまでの時間は、永遠のようでもあり、一瞬のようでもあった。
隣に座る母の、膝の上で握りしめられた手が小刻みに震えているのがわかる。
それはそうだろう。
今まで病院になんか自分から来たことのない私が、自らから体の不調を伝えたのだから。母に迷惑をかけないように、熱だって出さないように徹底していた。
私はそれを見ないようにして、壁に貼られた「健康な生活」なんていうポスターの文字を目で追っていた。
「小倉咲菜さん、中へどうぞ」
看護師さんの声に弾かれたように立ち上がる。
重い扉を開けると、そこには30代くらいの医師が、モニターを見つめたまま座っていた。
机の上には、さっき撮ったばかりの私のレントゲン写真が映し出されている。
医師は無言のまま、マウスを動かした。
カチッ、という乾いた音がして、画面上の白いカーソルが、私の心臓の、ちょうど真ん中あたりを指し示した。
そこには、健康な人間にはあるはずのない、歪な影があった。
まるで、土の中から芽吹こうとしている、小さな小さな、蕾のような影が。