島江凪は、二度恋をする。 ~飛べない鳥に、恋の歌~ ※改稿版

JKナギの目覚め


 コンコンとドアがノックされ、
「なぎー、朝ご飯よー、いいかげん起きなさい」
 とママの強制モーニングコールの声が響いタ。
 
 
 いつも通りの朝ダ。
 
 
 ん? いつもの通りカナ?
 
 
 さっきまで不思議な夢を見てイタ。
 ウチは、小さな白い鳥だっタ。
 暗い狭い巣の中で、親鳥が寄り添い、ウチは寝てイタ。
 そう、優しくて大好きな、ウチのパパとママ……思い出すと、涙がデル。
 
 白い鳥は、もし生まれ変わるなら、ニンゲンになりたいト。
 そして、あの男の子にもう一度あいたいト。
 
 ウチはベッドから上体を起こし、自分の手を開いたり握ったりして見つめる。
 ニンゲンの手だ。それは当たりマエ。だってウチ、島江 凪は元々ニンゲンだったもの。
 
 本当にソウカ? じゃあ、夢の中に出てきたパパとママは? ウチの兄弟姉妹……シマは? ユキは? イブキは? ソラは? アオバは? リクは? 、そしてシズクは?  
 
 不意にまた涙がこぼれてキタ……もうみんなに会えないノカって。
 
 顔がぐしゃぐしゃになったので、パジャマのまま洗面所に行ってバシャバシャを顔を洗う。そして、鏡の中の自分を見つめる。間違いない。ニンゲンの島江凪ダ。シマエナガのナギじゃナイ。
 
「オハヨウ」
 キッチンに入ると、いつものようにママが食器を洗って片づけていた。小さな液晶テレビがニュースを伝えてイル。
 
「さっさと食べちゃいなさい……いつも言ってるんだけど、あと十分早く起きればいいのに」
「うん、ゴメン」なにがゴメンなんだか、自分でもわからナイ。
 
 テーブルに座り、いつも通り、和食中心の朝ごはんを食べる。うーむ、これがニンゲンの食べ物か? なかなか、ウンマイ。
 
「あと、それからコレね」
「ああ、ありがトウ」
 
 ハテ……ありがとうとは言ってみたものの、テーブルに載せられたのはナニカ? それは布で包まれた箱。それをほどいて、箱のフタを開けて見ると……やはり食べ物が入ってイル。これも食べなさい、というコトカ。
 
「ち、ちょっとナギ、なんでお弁当食べてんのよ!」
「えっ? だって『はい』ってウチにくれたじゃナイ?」
「……私もJK時代は、二時限目が終わって早弁したことあるけど、さすがに学校に行く前に弁当箱を空っぽにしたことはないわ」
「そういうものナノカ?」
 
 ママは水道の蛇口を止め、ウチの顔をマジマジと見る。
「あなた今日、ちょっと変よ……言葉遣いもおかしいし。具合でも悪いの?」
「確かに夢の中では今にも死にそうダッタ」
「ほら、やっぱり変」
「まあ、気にするでナイ」
「……ほら」
 
 しょうがないわね、昼食代よと五百円玉を渡された。
 自分でも訳がわからず、とにかく学校の準備をすることにシタ。
 
 自分がニンゲンの島江凪であることに確信を持てないまま、時間割りを調べたり、制服に着替えたりした。こういうの、手続き記憶って言うんダッケ?
 カバンのポケットに入っている生徒手帳を見る。さっき洗面所の鏡で見たウチダ……高校生の少女の写真が学生証に貼ってアル。名前も島江凪。やっぱり間違いない。
 
 ウチは『普段通りに』支度をして、玄関で靴を履いた。
「行って来マス」
 キッチンに向かって声をかけると、ママがこっちに来た。
「それからナギ、昨日も言ったけど、パパ明日から札幌に行っちゃうので今日は早く帰ってきて一緒に夕ご飯を食べるのよ」
「サッポロ?」なんか懐かしい響きダ。
「ほんとあんた、大丈夫?」
 
 へーきへーきと言いながら、学校に向かう。
 ほんと、平気ダヨ。だってウチ、島江凪なんだし、こうやって通学路も覚えているシ。
 
  〇
 
 午前中は普通に授業を受け、普通にクラスメイトと話をし、時間が過ぎていっタ。
 
 グー。
 
 四時限目のチャイムと同時にお腹が鳴った。
 あのお弁当をお昼に食べるものだとすると、今までのウチは朝ご飯、あれで足りていたのだろうか? そんな疑問を感じながら、ママにもらった五百円玉を握りしめ、学食に向かった。
 
 食券の券売機や配膳コーナーは行列ができていて、食事コーナーのテーブルもほぼ満席ダ。みんな、ウンマそうなものを食べてるナ。これがニンゲンの高校生の昼の食べ物カ。仕方がない。購買に行ってパンかお結びを買おうと思って、食堂を離れようとした時。
 
 一人の男子生徒が大きな丼ぶりからなにかを啜っていた。
 テーブルに置かれたスマホには、白い鳥のストラップ……あれは。
 
 男の子の顔を覆っていた丼ぶりがトレーに戻されタ。
 
 
 あの子ダ!
 
 
 知ってル!
 名前は、コウイチ!
 
 見つけタ!
 
 シマエナガのナギがそう言った。
 
 あの男の子、理系クラスだっけ? でも名前まで知らないわ。
 
 女子高校生の島江凪がそう言った。
 
 いつのまにかウチは、その男子生徒に向かって走り出していた。あのウンマそうな食べ物を分けてもらうために、じゃなくて! 
 
 コウイチと、ちゃんと出会うためニ。
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