元恋人と、今日から同僚です
 昼過ぎ、休憩時間。
 モデルとヘアメイクが控え室で昼食を取っている間、私と朝倉はスタジオの隅で弁当を食べていた。

「午前中、どうだった?」
「すごく勉強になりました。現場の空気感とか。
 タイミングの取り方なんて、見ているだけで学ぶことが多いです」
「よかった」

 朝倉が弁当をつつきながら、言った。

「結城さん。現場での指示が的確ですね。迷いがない」
「……慣れてるだけだよ」

「それだけじゃないと思います。全体を見渡せてる。
 モデルさんの表情とか、カメラマンさんの動きとか。
 照明の加減まで。全部把握してる」

 褒められて、少し照れくさい。
 顔に出さないように、弁当に視線を落とした。

「朝倉も、よくやってくれてる。助かってるよ」
「ありがとうございます」

 朝倉が少し嬉しそうに笑った。
 その笑顔を見て、胸が締め付けられる。

 仕事のことだけ。今は。それ以上は考えない。

 何度も——自分に言い聞かせていた。



 午後五時——

 午後の撮影も順調に進み、予定通りに撮影が終了した。
 大きなトラブルもなく終われた。まずは一安心だ。

 機材の片付けを終え、スタジオを出たのは六時過ぎ。
 外はもう薄暗くなっていた。

「お疲れ様でした」
「お疲れ様。今日はありがとう、助かった」
「いえ、俺の方こそ勉強になりました」

 朝倉と並んで、駅に向かって歩く。
 撮影の疲れで、足が重い。でも、充実感もあった。いい撮影ができた。

「このあと、会社に戻りますか?」
「私は戻る。写真のセレクトを始めないといけないから」
「俺も手伝います」

「……いいの? 疲れてるでしょ」
「大丈夫です。最後までやりたいんで」

 その言葉が、素直に嬉しかった。
 投げ出さない責任感。昔から、朝倉はそれを持っていた。

「じゃあ、お願いするかな」
「はい」

 二人で会社に向かった。
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