元恋人と、今日から同僚です
 待っているだけ。何もしない。

 それは、消極的な逃げ方だ。
 私はそれに対して、積極的に逃げていた。

「だから、今度は、ちゃんとしたい」

 朝倉が、私の方を向いた。

「待つだけじゃなくて、ちゃんと伝える。言葉にして伝える」
「……」
「真帆のペースを尊重したい。急かしたくない。でも、黙ってるだけは、もうやめる」

 真剣な目。
 五年前より、少しだけ大人になった、まっすぐな視線。

「俺は、真帆と一緒にいたい。付き合いたい。将来のことも、一緒に考えたい」
「……」
「それが、俺の正直な気持ち」

 心臓が、早鐘を打つ。
 朝倉が、こんなにはっきり気持ちを伝えてくれるのは、初めてかもしれない。

「返事は、今じゃなくていい。でも、俺の気持ちは知っておいてほしかった」

 朝倉が、少し照れくさそうに笑った。

「待つだけじゃダメだって、やっとわかった。遅すぎるかもしれないけど」
「……遅くないよ」

 私は、小さく笑った。

「嬉しい。朝倉が、ちゃんと伝えてくれて」
「本当?」
「うん。私も、言葉にしてもらえると、わかりやすい」

 お互いに、伝えきれてなかった。
 五年前の反省。それが今……

「ありがとう。気持ち、受け取ったよ」

 朝倉は無言で頷く。

「もう少しだけ、待ってて。ちゃんと、答えを出すから」
「わかった。でも、待つだけじゃなくて、俺はこれからも言葉にして伝える」
「うん」

 二人で、なんとなく空を見上げていた。
 オレンジから紫に変わっていく。綺麗だった。

 朝倉の隣にいる。それだけで、なんだか安心する。
 無言でも、心地よい空間。

 答えは、もう決まっているのかもしれない。

 でも、もう少しだけ……この時間を大切にさせてほしい。
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